内容説明
太宰治・山崎富栄・太田静子をめぐる恋愛と情死の報道、「情熱の女」=柳原白蓮、松井須磨子の道ならぬ恋、“ミッチー・ブーム”を経て隆盛を極める女性週刊誌、そこに躍る女性のスキャンダル…。男性作家と恋愛関係にあった女性や作家、女優といった“女たち”は、なぜスキャンダルをその身にまとうようになるのか。またそれらをめぐる報道は、女性たちの生や身体、あるいは死をどう物語化していくのか。女性をスキャンダルの渦に巻き込み、そこにとどめ、消費の対象にしていく構造を明らかにする。
目次
第1部 スキャンダルを描く―“太宰治”の周縁(「斜陽」のざわめく周縁―“太田静子”のイメージ化;こぼれ落ちる声―太田治子『手記』と映画『斜陽のおもかげ』;「情死」の物語―マス(大衆)メディア上に構築された“情死”のその後)
第2部 スキャンダルを連載する―“女”を語る(「禁じられた恋」のゆくえ―女性週刊誌「ヤングレディ」に掲載された「実名連載小説」をめぐって;「情死」はいかに語られたか―「ドキュメント情死・選ばれた女」をめぐって;女性週刊誌で「ヒロイン」を語るということ―石垣綾子「近代史の名ヒロイン」を考える)
“女”を語る場
著者等紹介
井原あや[イハラアヤ]
1977年、静岡県生まれ。大妻女子大学大学院文学研究科博士課程単位取得退学、博士(文学)。現在、亜細亜大学、大妻女子大学、相模女子大学、実践女子大学非常勤講師(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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きつね
10
女性週刊誌という場にはたらく力学、男性編集者のもとで女性の書き手が女性について書き、女性読者読者が読む機構のなかで他者として周縁に追いやられた女性像が通貨のように流通する「ミソジニー(女性嫌悪)」の力場とでもいおうか。そうしたものを、太宰治の情死後にその作品の「モデル」とされた実在女性達がスキャンダル消費されたこと、60年代以降の女性週刊誌における過去の女性作家達のイメージの消費などについて扱って、浮き彫りにしていく著作であると読んだ。 1960年代から70年代の読者にとって注釈を付けなければならないよう2015/06/09
ちり
1
“ここにおいて、「情死」という不穏な言葉で語られた「ドキュメント情死・選ばれた女」の主人公たちは、「選ばれた女」という女性週刊誌の規定の文脈に回収される”“タイトルを見ただけでも、セクシュアリティを強調され、男性ジェンダー化した視線を内包して語られるステレオタイプの「ヒロイン」であることがわかる”2015/04/05
ゆに
0
明快な論旨、豊富な資料、明晰な分析。ただ、松井須磨子をはじめとした女性たちが、女性週刊誌の読者(「結婚予備軍」の「OL」)の反面教師的〈悪女〉として表象される一方で、男性に「選ばれた」女(読者の模範)としても表象されるというアンビバレンスについての考察が欲しかった。その交錯点には、〈スキャンダラスな女〉が持っていた可能性が眠っているのではないか。〈スキャンダラスな女〉とラベリングされることによって、彼女たちに潜在していた不敵さもまた、より炙り出されたのであろうから。その不敵さは、誰にとって脅威だったのか。2016/08/08