内容説明
日本における学生野球のルールを定めた学生野球憲章は、2007年に特待生問題や裏金問題で批判にさらされたが、根本的には何が問題だったのか。学生野球が一大イベントとして大いに盛り上がった大正期、政府の政策課題として取り上げられ文部省の野球統制令が敷かれた昭和初期、弾圧を受けた戦中期までの歴史を駆け抜けるなかでみえてくる選手やOBの喜びと葛藤、学生野球への人々の熱狂、弾圧の実態を丁寧に描き出す。そして、戦前・戦中の歴史をふまえて国家に対抗するために「学生自治」の必要性を訴え、占領期にGHQと対立しながらスポーツと学生・教育の関係性を模索して学生野球憲章を制定する過程に迫る。戦後の野球部内での暴力事件やプロ・アマ問題、2010年に改正された学生野球憲章への評価なども射程に収めて、いまもなお人々を熱くさせる学生野球の今後を見通す意欲作。
目次
第1章 野球狂時代の光と影
第2章 野球統制令の制定と学生野球界の抵抗
第3章 戦時体制下の学生野球
第4章 日本学生野球協会と学生野球憲章の成立
第5章 佐伯時代の高校野球処分問題
第6章 学生野球の変化と憲章の改正
著者等紹介
中村哲也[ナカムラテツヤ]
1978年、大阪府生まれ。武蔵野美術大学非常勤講師、博士(社会学)。専攻はスポーツ史、スポーツ社会学(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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白義
11
戦前の、国家による野球の統制、弾圧を教訓として戦後に制定された学生野球憲章。2010年の改正を受けて書かれた本書では、社会や国家による統制と、それに対する学生野球界からの反論、自治の精神を中心に日本野球史を振り返っている。しかしその野球界自身による自治の実態もまた、トップダウンの過剰や精神主義、暴力を内に多分に秘めたものだったのは周知の通りである。それを踏まえた上で過去の歴史と新野球憲章から改めて高校野球のあり方を探ろうとする、短くまとまった秀逸な野球史。佐伯達夫や飛田穂洲などの、狂信的でない側面も印象的2018/05/20