証言 未来への記憶―アジア「慰安婦」証言集〈1〉南・北・在日コリア編〈上〉

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  • サイズ B6判/ページ数 286p/高さ 19cm
  • 商品コード 9784750323206
  • NDC分類 210.75
  • Cコード C0336

出版社内容情報

戦後60年を過ぎても、元「慰安婦」たちの心身の傷はいやされていない。彼女たちはどんな甘言、強制を受けて連行されたか。日本軍兵士からどのような暴行を受けてきたのか。戦後をどのように生きぬいたのか。どのように解決すべきなのか。被害者自らが語る。

はじめに
朝鮮人「慰安婦」連行地マップ
1 証 言
 1 朴永心 最前線の戦場に
  コラム 女性国際戦犯法廷とNHK番組改ざん事件(西野瑠美子)
 2 宋神道 だまされて中国・武漢、そして日本へ
  コラム 裁判の経緯と現状(梁澄子)
 3 金学順 意を決して証言の口火を
 4 李桂月 たばこの火を押し付けられて
 5 郭金女 人間とは思えなかった
 6 朴頭理 主人と管理人に殴られて耳が遠くなった
 7 金英淑 性器を切り開かれ……
 8 黄錦周 「一家に一人の供出」と言われ
  コラム 「あー、タプタプヘ」(坪川宏子)
 9 朴玉善 六〇年ぶりに祖国に帰って
 10 李玉善 五八年ぶりに帰国を果たして
 11 文必ギ[王+基] 勉強したくて
 12 姜徳景 勤労挺身隊から「慰安婦」へ
2 解 説
 1 朝鮮植民地支配と「慰安婦」戦時動員の構図(金富子)
 2 証言にどう向き合うか(西野瑠美子)
 3 アクティブ・ミュージアム「女たちの戦争と平和資料館」への招待(池田恵理子)
 4 生存者たちのもう一つの願い―福祉の視点にたったサポート(矢嶋宰)
3 資料編
 1 中学歴史教科書記述の変遷――教科書から消されていく「慰安婦」
 2 一九九〇年以降の日本政府首脳による「植民地支配・戦争責任・慰安婦問題」責任発言年表
 3 国連関係諸機関による勧告等
おわりに

はじめに
 日本に「慰安婦」問題を記録する資料館を作りたい。そんな思いを熱く語り合ったのは、二〇〇〇年一二月に東京で開かれた「日本軍性奴隷制を裁く女性国際戦犯法廷」(以下、「法廷」)のあとの総括会議のことでした。「慰安婦」被害女性たちの証言や、被告を起訴するために集められた数々の証拠資料などの記録を残したい、そのために、いつか「慰安婦」問題に特化した資料館を建設したいと、夢を語り合ったのです。
 その夢の実現に大きく動き出したのは、「法廷」から二年後のことでした。二〇〇二年秋、女性国際戦犯法廷を発案し、実現のために力を尽くしてきたVAWW―NETジャパンの代表であった松井やよりさんが突然、ガンで倒れたのです。ガンはすでに手の施しようがないほど進行しており、告知からたった二カ月半で松井さんは永眠されました。その短い闘病生活のあいだに、松井さんは病の床から資料館建設を提案したのです。
 松井さんは資料館建設を思い立った日の夜のことを、友人たちに送ったメールの中でこのように語っています。

「アフガニスタンのカブールで体調を崩し、医者からすぐに帰国して検査を受けるようにすすめられた時、悪い予感がしました。死の恐怖がよぎって眠れないままに夜が更けるなかで、ふと、戦争資料館というアイディアが閃きました。それは九八年のある夜、突然、女性国際戦犯法廷を開こうと思いついたのに似ていました。その資料館のために老後の貯金やマンションなどを提供しようと思ったのです。
 そう考えているうちに、私は死に直面することの無念さや悔しさが消えて、これが私に与えられた使命ではないかと思い至って心が鎮まり、眠りに落ちることができたのです」(二〇〇二年十月十九日付メール)

 松井さんの闘病中、私たちは資料館の事業母体となる「女たちの戦争と平和人権基金」(のちにNPO法人を取得)を立ち上げ、資料館建設運動を始めました。それから二年半が過ぎた戦後六〇年の夏、ついにアクティブ・ミュージアム「女たちの戦争と平和資料館」(WAM)をオープンしたのです。

 「生きた証人がここにいる!」
 一九九一年八月に、姿を現し日本政府を告発した韓国の金学順(キムハクスン)さんのこの言葉は、長くて重い沈黙の扉を開きました。あれから一五年という歳月が流れましたが、この間、「慰安婦」問題は国際社会の人々の関心事となり、真の解決を願う声は世界的に広がりました。この中で、「慰安婦」問題の認識に「女性に対する暴力」の視点が定着し、「慰安婦」問題は戦後補償問題とともに、女性の人権の問題として深められていきました。人々を動かし、認識を育て、歴史を動かしてきたのは、紛れもなくサバイバーたちの勇気ある証言、正義と真実を求める闘いでした。被害者の証言が人々を突き動かし、社会を動かし、沈黙の歴史を破ったのです。
 資料館をオープンし特別展を重ねる中で、アジア各地で声を上げ、被害を語ってきたサバイバーたちの声を記録しよう。そして一人でも多くの人々に被害者に出会ってほしい。「慰安婦」問題を一括して語るのではなく、一人ひとりの被害者の体験に耳を傾け、一人ひとりの被害に向き合い、そこから浮かび上がる日本軍「慰安婦」制度の実態を伝えたい。オーラルヒストリー重視の姿勢は、「女たちの戦争と平和資料館」のスタンスですが、そんな思いからアジア「慰安婦」証言集の企画が動き出しました。
 「慰安婦」問題を記憶し、何があったのか、なぜ、このようなことが起きたのかを考えていくことは、被害者たちの尊厳の回復のために不可欠な営みであると同時に、二度とこのような犯罪を繰り返さないための貴重な歴史の教訓です。本シリーズを「未来への記憶」としたのは、そのような思いからです。
 本著の第一部に収録した南北コリア、そして在日の被害者の証言は、日本の植民地支配の下で性奴隷にされた朝鮮人「慰安婦」の歴史的背景と慰安所での生々しい実態を浮かび上がらせます。第二部の解説には、証言をより理解するために、朝鮮人「慰安婦」戦争動員の特殊性、被害者の証言に向き合うことの意味、被害者たちの現在に関する論考を収録しました。

 本著を出版する二〇〇六年春から秋にかけて、「女たちの戦争と平和資料館」では「置き去りにされた朝鮮人『慰安婦』展」を開催します。
 日本の敗戦=朝鮮の解放から六〇年という長い長い歳月が流れましたが、日本の敗戦時に日本軍により置き去りにされた朝鮮人「慰安婦」の多くは、いまだに祖国に帰ることができず、連行された地で暮らしています。本書に収録した中にも「置き去り」の被害者がいます。
 差別と闘いながらも日本政府を相手に裁判を起こし、日本で暮らしている宋神道(ソンシンド)さんも、その一人です。李玉善(イオクソン)さんは、戦後半世紀以上を経た二〇〇〇年に、ようやく韓国に帰国しました。李さんと二〇〇一年に帰国を果たした朴玉善(パクオクソン)さん、文必[王+基](ムンピルギ)さんは、現在「ナヌムの家」で暮らしていますが、「ナヌムの家」には戦後半世紀を経て帰国した五名の被害女性たちを含めて九名のハルモニが共同生活を送っています。
 「法廷」で「生きているうちに故郷に帰りたい」と訴え、その三年後に帰国がかなったものの、人生の大半を中国で暮らした河床淑(ハサンスク)さん(第二巻収録)は、中国に残してきた娘たちと離ればなれになった生活の寂しさも手伝い、二〇〇五年に再び武漢に帰っていきました。夢にまで見た故郷でしたが、数十年の空白を経た故郷は、無残にも河さんの生活の場ではなくなってしまったのです。
 朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)に暮らす朴永心(パクヨンシム)さん、金英淑(キムヨンスク)さん、李桂月(リゲウォル)さん、郭金女(カククムニョ)さんは、日朝国交回復がなされてこなかったために、その声も姿も、日本の人々に知られることはありませんでした。
 北朝鮮の被害者は、日本政府の責任はもとより、人々の関心からも置き去りにされてきたのです。
 「慰安婦」被害者として初めて名乗り出て、歴史の襞(ひだ)に隠されてきた「慰安婦」問題を大きく浮上させた金学順(キムハクスン)さん。「責任者を処罰せよ」の絵を描き(本書一九二ページ)、強烈なメッセージを送り「法廷」を開催するきっかけをつくった姜徳景(カンドクョン)さん。関釜裁判を闘った朴頭理(パクトゥリ)さん。彼女たちは正義の実現を見ることなく他界されましたが、最後まで真の解決を訴え続けていました。
 黄錦周(ファンクムジュ)さんは十数年、日本をはじめ世界各地で証言を行っています。八十歳を過ぎて体力は急速に衰えていますが、正義の実現を訴える被害者たちの闘いは、今も続いています。

 本著はシリーズ『アジア「慰安婦」証言集』の第一巻ですが、今後、中国、台湾、日本、フィリピン、インドネシア、オランダをはじめとする東南アジア・太平洋地域の「慰安婦」・性暴力被害者の証言や元日本兵の証言集の刊行を予定しています。この証言集が被害者との出会いの場となり、サバイバーたちの証言が、広く人々の心に届き、「慰安婦」問題を深く考える入り口になることを、心から願っています。

二〇〇六年四月
責任編集者 西野瑠美子・金富子

目次

1 証言(朴永心―最前線の戦場に;宋神道―だまされて中国・武漢、そして日本へ;金学順―意を決して証言の口火を ほか)
2 解説(朝鮮植民地支配と「慰安婦」戦時動員の構図;証言にどう向き合うか;アクティブ・ミュージアム「女たちの戦争と平和資料館」への招待 ほか)
3 資料編(中学歴史教科書記述の変遷―教科書から消されていく「慰安婦」;一九九〇年以降の日本政府首脳による「植民地支配・戦争責任・慰安婦問題」責任発言年表;国連関係諸機関による勧告等)

著者等紹介

西野瑠美子[ニシノルミコ]
アクティブ・ミュージアム「女たちの戦争と平和資料館」館長。「戦争と女性への暴力」日本ネットワーク共同代表。2004年度JCJ賞受賞

金富子[キムプジャ]
青森県生まれの在日朝鮮人二世。韓国・韓神大学校教員(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。

感想・レビュー

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よーこ

0
慰安婦として被害にあった方たちの証言は、女性たちの置かれた状況が如何に過酷であり、尊厳を踏み躙るものであったかを、理解させてくれた。 この本を読む前に、「従軍」慰安婦を否定する主張の本を読んだ。その本の説明は、確かに筋は通っているように思ったが、何かもやもやしたものが晴れなかった。 もやもやしたのは、その本の主張が被害者の気持ちを軽んじているように思えたからなのかもしれない。彼女たちの慰安婦になった経緯だけを理由に、日本に責任はないと切って捨ててしまえるものではないと思う。2018/11/09

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