偶景 (新装)

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  • サイズ B6判/ページ数 184p/高さ 20cm
  • 商品コード 9784622049944
  • NDC分類 954
  • Cコード C1098

出版社内容情報

偶景(アンシダン)-偶発的な出来事、日常の些事…、ここでは、1968-69年にかけてのモロッコでの見聞を記録した断章。故郷バイヨンヌの風光と母との思い出を綴った「南西部の光」、パラス座の自由な空間を称えたエッセー「パラス座にて、今夜……」、「パリの夜」の4篇のテクストを収録。晩年のバルトが志向した《ロマネスク》(小説的なもの)の実践であり、断片である。 1985年初版

内容説明

本書は4篇のテクストから成っている。母と共生した故郷バイヨンヌの風光と思い出を語った「南西部の光」、パラス座の自由な空間を称えたエッセー。「偶景」は、1968‐69年にかけてのモロッコでの見聞を記録した断章である。モロッコは、スタンダールのイタリア、ジッドのアルジェリアと同様、バルトの欲望が漂流する狂気の場であった。そして、「パリの夜」、これは『失われた時を求めて』の同性愛者シャルリュスがさまよい歩くソドムの都市の住人にかんする日記=ロマネスクである。

目次

南西部の光
偶景
パラス座にて、今夜…
パリの夜

著者等紹介

バルト,ロラン[バルト,ロラン][Barthes,Roland]
1915‐1980。1915年フランスのシェルブールに生まれ、幼年時代をスペイン国境に近いバイヨンヌに過す。パリ大学で古代ギリシア文学を学び、学生の古代劇グループを組織。結核のため1941年から5年間、スイスで療養生活を送りつつ、初めて文芸批評を執筆する。戦後はブカレストとアレクサンドリアでフランス語の講師、その間に文学研究の方法としての言語学に着目、帰国後、国立科学研究センター研究員、1954年に最初の成果『零度のエクリチュール』(邦訳、みすず書房、1971)を発表。その後、エコール・プラティック・デ・オート・ゼチュードの「マス・コミュニケイション研究センター」(略称セクマ)教授を経て、1977年からコレージュ・ド・フランス教授。1980年歿

沢崎浩平[サワサキコウヘイ]
1933年東京に生まれる。1957年東京大学文学部仏文学科卒業。1966年東京都立大学大学院博士課程修了。元東京都立大学人文学部教授。1988年歿

萩原芳子[ハギワラヨシコ]
1948年東京に生まれる。慶応義塾大学文学部仏文科卒業。パリ第三大学修士号取得。東京都立大学博士課程修了。現在明治大学助教授
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。

感想・レビュー

※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。

26
モロッコに滞在した際に書かれた連続/非連続的な景象の数々と同性愛について書かれたエクリチュール。書き方はエッセイ風であるにも関わらず、けしてエッセイではない。当然物語や小説でもない。記述された人々は肉を持ち視線を持っている。彼らは不意にテクスト自体の表層に現れ、こちらに生きた瞳で視線を投げかけ、何かしらの言葉と彼の居た風景を残し再びテクストの中に消えていく。このテクストの良さを表現するのは難しいけれども、とても読んでいて気分が良い。何か、どうぞここに座っていてください、と椅子が準備されている感じがする。2015/05/03

松本直哉

13
人生には何一つ無駄なことはなく全ての出来事にはー失敗や寄り道に見えることさえもー意味があると考えて人生を一つの首尾一貫した物語と捉える、いわば道学的小説家の立場に逆らって、出来事一つ一つを意味のない偶然的なばらばらの粒子のようなものとして記述する著者の立場は写真家のそれに似ていて、意味から切り離されたとき一つ一つの些細な断片はまるで不意打ちのような美しさと輝きー全体に奉仕しない「個」としての輝きーを持つ。構成を放棄し意味を排除するとき初めて風の匂いは胸を打ち生は愛すべきものとなる。2016/07/01

ラウリスタ~

6
ふ~ん。エセー風の書き方。日記って形式を取ってるよう。もっとも出版を前提として、物語として日記を作ったってとこだろう。パリの街を彷徨うバルトは19世紀から連綿と続くパリの遊歩者の伝統を換骨奪胎している。街で出会うジゴロ(男妾)との目配せやら、すでに自分が欲望の対象にはなり得ないほど年をとったことに対する悲哀だとか。ただこんなにホモホモしいとは思っていなかったので、なんとも。母の死をきっかけに吹っ切れたんだと。2012/10/02

ハチアカデミー

6
D+ 偶景(アンシダン)とは、意味の消失点である。日常の景色の中から、記号を読みとることの出来ない絶対的風景を描かんと試みる、写真のようなスケッチの断片なのだが、「望みのことは何でもする」という言葉を「あなたと寝ます」と読みとる輩に、意味の消失した風景を描くことはできず、むしろなんらかの意図を感じさせる断章となっている。その乖離が面白くはあるが、没後未発表のものをまとめて一冊にされた本書は、よほどのバルティストでなければ楽しめないのではないか。まあ、タイトルから写真論的なものを期待した私が悪いのだが。2012/08/09

uchiyama

1
誰が書いているのか、について、気取りや限界(西洋の知識人、老いた同性愛者)も含めてイメージ化されてしまうことすら恐れず、「真実を書く」のではなく「正確に書く」ことで、「作家に与えられた領域は、知識や分析の前庭」であるということを、実践的に示すこと。そうすることで、読者がともすれば行ってしまいがちな、イメージの解釈を逸らしていく。そんな戦略によって、ここにある悲哀が、物語化された感情ではなく、具体的な一つの悲しみにとどまっているからこそ、何度読んでもそれを身体的に知覚できるのだと思いました。2021/07/10

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