内容説明
…エイダは９歳の娘フローラとともに、長い船旅を経て見知らぬ男のもとへやってきた、この男に嫁ぐためだった…。浜辺に降ろされたエイダの荷物のなかには彼女の分身ともいえるピアノがあった。だが、ピアノは引き取りを拒絶され、そのまま浜辺に放置される。朽ち果てるピアノの運命に耐えられぬエイダは、顔に刺青を彫った奇妙な隣人とある取引を交わす。ピアノを弾いているときだけ、好きなようにしていい…その代わりに一回ごとにピアノの所有権を私のもとに移して欲しい…。１９世紀ビクトリア朝に生きた女と男の、あまりにも激しい情念の世界を比類のない詩的感性で映像化することによって数々の映画賞を受賞した名画の原案を、作者自身が大胆な筆致で小説化した異色の文学。映画では描かれなかった登場人物たちの過去の秘密、意外な素顔が、小説という表現形式を得ることによってはじめて明らかにされ、官能と真実の物語はようやくクライマックスを迎える…。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
けろりん
54
水底に沈む音楽。砂浜に打ち捨てられ、波浪に晒され厳かに朽ちゆくピアノ。舞台は南半球の新天地でありながら、物語世界を覆うのは英国北部の薄墨の冷やかさと閉塞感。因習と良識とコルセットに閉じ込められた「暗い才能」。自らの意思で声を封じ、ピアノの音でのみ感情の発露をするビクトリア朝時代の女性、エイダの鬼気迫る程の生き方。密林と驟雨の彼方に響く澄んだ音色は、彼女が鉄の信念と血肉で贖った魂の雫。2021/01/18
くまこ
5
「ジェーン・カンピオンって、映画の監督・脚本をやった人？」「そう、新潮文庫から、シナリオを収めた映画ガイドブックが出てるけど、あれとは別のノベライズよ」「映画はナイマンの音楽が素敵だったなあ」「そうね、小説を読むときもサントラCDをBGMにすると楽しいわね。ニュージーランドの海と原生林が細かく描写されていて、そこから人間の原始的な性愛がクローズアップされていくの。男と女の哀しい性（さが）も重要なテーマね」「そうなんだ。今度読んでみるね」 2013/12/22
つきと
0
映画では明かされなかった背景やエイダが語る言葉から、この作品を新たな視点で見る事ができる。奇妙な静かさと、それに相反する荒々しさは本書でも健在。2010/03/02
n/a
0
映画には出てこなかった背景などもよくわかった。2009/06/11
