内容説明
男が訪れてたクリミア半島の海辺の町はまるで猫に支配されたかのように、夜の闇を無数の猫がうろついていた。町にはスフィンクスのかたちをした猫の記念碑が建てられ、人びとは猫をこよなく愛していた。だが、ある夜、人間が猫に襲われ、猫インフルエンザのウィルスが見つかると、町は検疫のため封鎖され、感染をおそれた町の住人は猫殺しにはしりはじめた…。鳥インフルエンザ、豚インフルエンザとつねにパニックにおちいる現代社会を30年前に予見していたロシアのミステリー小説がいま蘇る。
著者等紹介
ポドリスキイ,ナリ[ポドリスキイ,ナリ][Подольский,НалЬ]
1935年、レニングラード(現在のサンクトペテルブルグ)生まれ。大学を卒業後、工学博士候補から助教授になって教鞭をとり、その後、考古学研究所などで仕事をし、考古学の発掘調査にはソ連、ロシア時代を通して25回以上も参加、ロシア地理学会会員にもなった。1970年後半から作品を書きはじめ、その頃に書いた『猫の町』は秘かに西側に持ち出され、1979年にパリでV.ダリ文学賞を授与された。その後、短編集『ゲームの成果』が検閲に引っかかり、反ソ的イデオロギー活動の罪で国家の監視を受けていた時代もあった(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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らぱん
41
70年代に検閲で発禁となり98年に再出版された問題作。ソ連時代に軍港だったために地図上には存在しない町がモデルになっており、海洋学者である男は学術調査のためにその町に赴く。人の数より猫のほうが多いようなのんびりした海辺の町で、男は悪夢に悩まされ始める。無意識に感じていた不穏な気配は監視社会の不気味さに変わり、ある出来事をきっかけに狂気が明らかになる。表向きはパニック小説だが、多数派による少数派の排除などもあり、言論弾圧の告発も暗示される。カフカを思わせる不条理な幻想小説にも読める奇妙な味わいがあった。↓2019/05/03
takaC
27
カバー折り返し等に書かれている内容紹介は的外れ。「訳者あとがき」に書かれている津和田美佳さんの見解は的を射ているのに。2012/06/17
紅蓮
10
「まさしく国民病だよ、僕たちの……いつも、いつも、自分たちが追跡されているように感じるなんて」ユーリイは声を低くして言う。「僕たち全員が、狂気の瀬戸際に立たされている。この事を理解したら、あなたの恐怖心は消え失せるはずですよ。そうじゃないと、本当に頭がおかしくなってしまいますからね。あなたは今日、僕たちまでも、そんな気分にさせたでしょう?」(p61)と語ったキーパーソン、ユーリイは序盤で猫の町を離れてしまう。町に残った主人公はついに一線をこえてしまう。2014/06/26
あつひめ
9
目に見えないウィルス・・・。いつの時代も目に見えないものは恐ろしく神経もが侵されしまう。猫の町・・・なんてタイトルに引かれて図書館で予約したけれど、そんなウキウキした気分で読むものではなかった。新型インフルエンザや鳥インフルエンザなど次々に世界中を襲っている今・・・こんな不幸な町ができないことを祈りたい。2010/01/27
きゅー
8
かつてソ連には、小規模の軍事基地が置かれた町があったという。そうした町に入るには、ソ連市民であっても特別な許可が必要であり、町の名は地図に載ることもなく外界と遮断されていた。『猫の町』は、そんな町をイメージして書かれた小説だ。人が訪れることのない町であったが、物語半ばから実際に町が封鎖される。シチュエーションとしてはカミュの『ペスト』と非常に似通っている。しかし、『ペスト』で提示されるのが人々の勇気であり、他人のための自己犠牲であるのに対して、『猫の町』が露わにするのは、超自然的な存在への恐怖だ。2021/04/02