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内容説明
カリブ海に浮かぶ国、ハイチ。ヴードゥー教が未だ根強く生き伸び、異様な熱気の充満する大平原…。本書は、松明の炎と呪咀の叫びの交錯する中、自由と独立を渇望する闘争が壮絶に繰り広げられるかの地での神話的〈現実〉を、巧みな語り口によって大胆に描く、暴力と死に彩られた専制の興亡史である。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
こーた
262
事実を淡々を述べている。人びとの生と死を、王の繁栄と滅亡を、冷静な筆致で見つめ描く。神の視点である。島の歴史が語られ、とんでもない混沌のなかから、国が形作られてゆく。ときに神の仕業としかおもえない、魔術的な出来事が起こる。でもすべて現実だ。あるいは革命とはそういうものかもしれない。ひとつの国をつくるとは、つまりそれほど魔術的でなければ成し得ないことなのだ。よくできた物語は歴史と区別がつかない。そこにほんのすこしだけ魔術が加われば、その物語は神話となる。この世の王国は、そんな儚い神話のうえに築かれている。2020/01/22
ケイ
130
作者による前書きがなければ、ハイチ独立の立役者達やその独立の経緯がわからないので、作者が込めようとしたものが理解しにくかったかもしれない。横暴な白人から独立しようとするまでには、何人もの指導者が出ては惨殺された。何度かの蜂起を経て、支配する者の土台が弱くなった時、ようやく彼らの世界がくる。しかし、作られたのは新たな王国で、抑圧される者のための国ではなかった。森と夜の闇が、彼らを見ている。決して新しい王国を助けようとはしない。最初から見ていた者は、ただ加わっだけ。そもそも彼も連れてこられた人なのだから。2017/02/12
どんぐり
77
ハイチの動乱と反乱(ハイチ革命)を描いたマジックリアリズム小説。ヴードゥー教を崇拝する黒人奴隷の魔術的な世界に、フランスのルクレルク将軍と皇帝ナポレオンの妹ポーリーヌ・ボナパルト、ハイチの初代国王アンリ・クリストフの最期の場面も出てくる4部構成。特に、第1部で動物から魚や鳥、昆虫に変身する黒人奴隷の指導者マッカンダルが捕えられ、火炙りにされて宙に舞い上がる場面が面白い。2020/01/21
扉のこちら側
75
2017年65冊め。【269/G1000】歴史の前面には出てくることのない黒人奴隷の目を通して見たハイチ動乱の歴史。解説によると三人の歴史上の人物をフィクショナルな人物に仕立て上げているらしいのだが、歴史に疎いのでそのあたりの面白さは実感できず。史実と神話の偏在という雰囲気はわかったが、人間の感情の描写が薄く、物語の内側に入り込むというのが難しかった。 2017/01/21
NAO
65
第1部は、黒人奴隷が白人農場主たちを毒殺し、火炙りにされるまで。彼はヴードゥー教信者だったが、第2部に登場するジャマイカ人もヴードゥー教祭司で、夏の嵐の夜森でヴードゥー教の儀式を行ったあと、自由と独立のための反乱を起こす。第3部では、もと黒人コックが国王と称して宮殿に住むが、部下の反乱で自死する。ヴードゥー教を崇拝する黒人奴隷の魔術的世界、滅びゆく植民地の白人社会、フランスに憧れ全てにおいてフランスを模倣し破滅した黒人コック。作者は独立前後のハイチを様々な視点から描き、その問題点を浮かび上がらせている。2022/05/06