内容説明
植民地支配からの解放の喜びもつかの間、人間らしく平穏に暮らしたいという人びとの願いは、まもなく始まった朝鮮戦争によって無残に打ちくだかれていく。戦線が南へ北へと移動するたびに統治者が入れかわり、ソウルではやがて激しい空襲が―。戦争によって大切な人たちとのきずなが断ち切られてゆく過酷な状況のなか、主人公たちはどのような道を選びとるのか。『1945、鉄原』の続編。
著者等紹介
イヒョン[イヒョン]
以玄。1970年、韓国・釜山(プサン)市生まれ。ソウル在住。2004年第10回全泰壱(チョンテイル)文学賞小説部門受賞を機に作家活動を始める。2006年童話「ジャージャー麺がのびちゃうよ!」で第13回チャンビ(創批)「すぐれた子どもの本」原稿公募大賞、2012年童話『ロボットの星』(SF)で第2回昌原児童文学賞を受賞
下橋美和[シモハシミワ]
1971年、京都生まれ。オリニほんやく会(韓国児童文学の翻訳会)会員。大阪外国語大学(現・大阪大学)言語社会研究科国際言語社会専攻、日本コース博士前期課程修了。修士(言語文化学)。現在、京都大学、同志社大学非常勤講師(日本語)(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
yyrn
16
半島全体が右と左に分裂し、言論ではなく暴力と武器で反対派を手当たり次第に殺していった70年前(朝鮮戦争3年間での死者約200~300万人)を中高生だった主人公たちの視線で語られる本。かつての仲良しが分断され憎悪を生み絶望を味わい、でもちょっとしたことに安らぎを覚えながらも頼れる大人も少なく、各々が必死に考えて行動する姿に、今の平和慣れした時代に生きる人間として申し訳なく思う気持ちでいっぱいになった。▼開戦後三日でソウルは北朝鮮軍の手に落ち、逃げ遅れた者は共産主義を受け入れなければ死が待っていたし、⇒2021/10/30
紙虫
8
日本からの解放まもない1950年、朝鮮半島は再び戦乱となる。それも同じ民族同士での戦いが約三年続く。南北の境界線がその時々で上下する中で混乱するソウル。多感な年代の少年少女たちが、アイデンティティを手探りしながら懸命に生きている。前日までは北の施設が翌日には南の施設となり、価値観が激変すると同時に生活のよりどころも失っていく。この新型コロナウイルス感染症流行を見ても人間の生活はもろい均衡の上で成り立っていて、私達は心していかなければならないとこの少年少女たちは訴えている。2020/04/12
sunflower
6
「1945,鉄原」の続編があると分かった瞬間から読まなければと思った。私は隣の国で起きた出来事をあまりにも知らなすぎる。あの時代に世の中に翻弄されながらも懸命に生きようとした人々がいた事を、1950年6月25日。理想に燃え戦う人、貧富の差を無くし、世の中を良くしようと立ち上がる人。どちらの波にも乗れずただ流される人々。どちらが悪でどちらが善?正義とは?信じる道が違うだけで、こんなにも一瞬にして全てが崩れてしまう。憎しみは更なる憎しみを生んでしまう。2020/08/02
コウみん
3
朝鮮戦争中の彼らの理念による葛藤。 同じ民族の同士の戦いによりたくさんの人々は亡くなった。 ここでも登場人物が何人くらい亡くなったくらいにあの戦争はとても悲しかった。そして、ギザギザになる人々の絆も見せていた。2022/05/11
丘の十人
3
前に読んだ「1945鉄原」の続編、今回は戦線が南から北へ、ソウルまで押し戻され停戦にいたるまでを描く。戦乱の中での韓国内での革命運動、それに対峙する勢力、両者にかかわる主人公の生きた方等が面白い。物語の背景がよくわかる。それにしても一つの民族が分かれてこれだけの戦争をやり365万人を超える「人口の6人に一人」が亡くなった。これも大きな悲劇。2019/05/29