内容説明
本書は、古代ギリシア・ローマ以来の記憶モデルの変遷を跡づけ、中世に開発された奇怪な記憶術の数々を紹介するとともに、記憶術が社会制度・伝統に対して果たした役割、文芸に与えた影響、さらには読書と記憶、著述と記憶の関係、そして数々の貴重図版とともに、記憶のために書物のレイアウトがいかに工夫されたかを明らかにする。中世ヨーロッパ社会における記憶の働きに初めて光をあてた画期的研究書。記憶術と書物のレイアウトとの関係を明かす図版30点収録。
目次
第1章 記憶の諸モデル
第2章 記憶の神経心理学的解釈
第3章 初歩の記憶法
第4章 記憶術
第5章 記憶と読書の倫理
第6章 記憶と権威
第7章 記憶と書物
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
彬
12
中世ヨーロッパにおける記憶術に関する記述が主だが、主題として扱っているのはその時代の人々の「記憶」に関する考え方だ。記憶術の概要を始めに扱い、中世においてどのように変遷していったのか、どのような立場の人が、どのような場合に使ったのか。また記憶の地位は現代とどのように異なったのかを丁寧に解説している。中世の社会学の一考にもなる。挿絵と付録として巻末にて翻訳された関連書も嬉しい配慮。特に言及されている人物において知見があるとなお理解しやすいのではないだろうか。個人的には記憶術の概説と変化が興味深かった。2012/09/10
メロン泥棒
4
中世においては高い記憶力を持つ人間こそが天才であり尊敬されていた。そのため、記憶術は今よりはるかに重要なテーマであった。当時「書物は記憶の召使い」と言われ、書物と記憶は密接な関係がある。本書では当時の記憶に対する考え方から具体的な記憶術まで幅広く述べられているが、何より驚いたのは中世の記憶術が現代の記憶術と変わらないことである。挿絵や色文字や注釈などで記憶を補助したり、番号を振って関連づけたり、まるで現代の学習参考書の様だ。2010/10/17