内容説明
リンネの「哺乳類」(ママリア、字義どおりには乳房類)という新しい分類名は、当時定着しはじめた(乳母ではなく母親自身の)母乳による子育ての流行を色濃く反映していた。革命の象徴でもあった乳房は、いつしか中流家庭内のつつましい良妻の象徴へと後退を迫られてゆく。本書は乳房の形や性器の形状を科学の名の下にうんぬんする博物学者の虚妄と、「自由、平等、友愛」をうたった啓蒙の世紀のジェンダーの罠をあばく。
目次
第1章 植物の私生活
第2章 なぜ哺乳類は哺乳類と呼ばれるのか?
第3章 類人猿の男らしさ、女らしさ
第4章 差異の解剖学
第5章 ジェンダーと人種の理論
第6章 誰が科学をすべきか
終章 扱いそこねられた自然の身体
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
内島菫
17
本書によって、私たちの知がどう形成されてきたのか、つまり、世界がなぜ今あるようにあるのかということの社会性や政治性を改めて確認できる。知が世の中の力関係によって生み出される部分があり、また知が力関係を作り出す部分があるということに注目すると、人はたいていその時代の枠内ですでに答えが出ていることを前提にして自然を探求するので、科学といえどもかなり幻想味を帯びてくる。というより、白人男性以外を人とも思わないのがアカデミックな態度であった時代(今もそうだろうか)、学問の名のもとに都合良くそして粘着質的・病的に2022/02/28
左手爆弾
3
素晴らしく良い本なのでみんな読もう。「科学は誰がやっても同じな客観的で普遍的な真理を扱っている」というのは思い込みであることを博物学を題材に明らかにしていく。本書が主に扱う17~19世紀の博物学者の圧倒的多数はヨーロッパ人の男性である。こうした人々がアジアやアフリカ、南北アメリカの動植物や人間を観察し作り上げたのが生物学的な分類だ。そこには彼らが持つバイアスが必然的に反映されている。とりわけリンネは伝統的なジェンダー観をそのまま自然の理解に反映させてしまった人物として批判的に描かれる。2020/06/08
ちり
2
“自由派は女性を科学「好き」にしようとして、女子教育の改善と科学分野での女子の自負心の高揚を望んできた。しかし、徐々に、問題は女性の側ではなく、より広い文化とか科学精神にあるとされはじめた。ここ十年の研究で明らかになったことは、近代科学の種々の局面-文化、方法、世界観、優先順位-が女性の排除に寄与してきたことである”2018/09/07