出版社内容情報
タイにおけるセックスツーリズムは、巨大な社会・経済現象。しかしこれまでに文化人類学的に研究されたものはほとんどありません。バンコクのゴーゴーバーを舞台に、そこで働くバーガールたちと男性客たちの親密性、経済取引、市場の特異性などを文化人類学的なアプローチでケース調査、経営学的な視点でまとめたユニークな研究レポート。隆盛する〈親密性産業〉の実態が、読み物としても十分に面白いバーガールと男性客たちのインタビューをとおして明らかにされます。
はじめに
第 1 章 本書の視座と射程
1. 1. セックスツーリズムとタイのゴーゴーバー
1. 2. 先行研究の流れ
1. 3. 経営人類学という視座
第 2 章 タイにおけるセックスセクター
2. 1. セックスセクター概観
2. 2. 観光志向のセックスセクター隆盛の歴史的背景
第 3 章 ゴーゴーバー素描
3. 1. 立地と人口
3. 2. 営業形態
3. 3. バーガールたちの仕事と労働条件
第 4 章 経済取引としてのバーガール‐男性客関係
4. 1. バザール型市場論
4. 2. バーガール‐男性客関係におけるリスクと利得の問題
4. 3. バーガール間における連帯と競争
4. 4. ヤヌス的な市場特性が生むダイナミズム
第 5 章 経済外的な関心と私的な親密性
5. 1. 当事者たちの多様な関心
5. 2. バーガール‐男性客関係の諸相
5. 3. 仕事からの逸脱と焦点化される私的な親密性
5. 4. オクシモロニック・ワーク
第 6 章 <親密性産業>の経営人類学的研究に向けて
あとがき
0 参考文献
"お盆や年末年始、ゴールデンウィークは日本人にとっては最大の旅行シーズンである。ゆえに日本の旅行会社や航空会社にとってかき入れ時なのはもちろんだが、受け入れ国側の商売人たちにとっても大きなビジネスチャンスとして期待されていることは、あまり旅行者たちの関心の俎上には載らないようだ。タイは観光立国として名高く、年間にタイを訪れる外国人観光客の数は2001年には1,000万人を超えた。そのうちでも日本人は最大の顧客と言って良く、2001年には延べ約117万人の観光客がタイの土を踏んでいる。日本人が大挙して押し寄せる旅行シーズン、タイの首都バンコクや有名ビーチリゾートであるパタヤやプーケットは、観光客の落としていく日本円で活気づく。ホテルやゲストハウスなどの宿泊施設はもちろん、地元の観光名所やツアーオペレーター、ダイビングショップや土産物屋などの経営者は、この機会に何とか売り上げを伸ばそうと虎視眈々と狙っている。もちろん、そうした商売人たちの中には、観光客を相手にして生計を立てるバーガールやビーチボーイなども含まれる。日本人観光客(男女を問わず)の一部がタイを訪れた際に示す性的放縦は、当人たちの意識がどうであれ、地元のタイ人たちにとっにおいてもままあることだろう。
筆者はタイに3年近く滞在した経験があるが、筆者がタイで知りあった日本人男性の多くは、タイでの買春経験があることを隠そうとはしなかった。というよりも、彼らにとって<タイで女を買う>というのはあまりに当たり前のことであって、恥ずかしいことでも悪いと思うことでもないように見えた(少なくとも男同士の会話の中では)。もちろん、タイを訪れる全ての男性があからさまに金銭と引き替えの性交渉を持っていると主張するつもりはないし、中には女性とそういう関係を持つことを毛嫌いする男性も多いだろう。しかし、一般的に言うなら、タイを訪れたときにそのような行為を持つか持たないかに関しては、例えば盗みを働くかどうかといった際の<ある一線を越える>的な意識はなく、多分に好みや気分の問題や、金銭・時間その他の事情が許すかどうかというテクニカルな問題に過ぎないのではなかろうか。いわば、マッサージに行ったり、ゴルフに行ったりするのと大した違いはないというわけである。
"
ゴーゴーバーを舞台に繰り広げられる、バーガールと男性客との駆け引き、擬似恋愛的ドラマは読み物として、またゴーゴーバーのマニュアル本としても読めるユニークな本です。
目次
第1章 本書の視座と射程
第2章 タイにおけるセックスセクター
第3章 ゴーゴーバー素描
第4章 ゴーゴーバーの市場論
第5章 経済外的な関心と私的な親密性
第6章 “親密性産業”の経営人類学的研究に向けて
著者等紹介
市野沢潤平[イチノサワジュンペイ]
1971年生まれ。成城大学文芸学部文化史学科卒業。民間企業勤務などを経て、アサンプション大学経営学修士(MBA)、チェラロンコーン大学タイ研究修士(MA in Thai Studies)。東京大学大学院総合文化研究科博士課程に在籍中
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