出版社内容情報
小川洋子の極上世界がさらに官能的に響く！
忘れられたおとぎ話の中で、オオカミは腹を裂かれ、少女は行き先を見失う。画家・樋上公実子のイラストをモチーフに、作家・小川洋子が紡ぎだした残酷で可憐な物語。書き下ろし競作集。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
匠
178
「赤ずきん」「アリス」「人魚姫」「白鳥」をモチーフにした、いかにも小川さんらしいブラックで毒のある大人のおとぎ話。樋上公美子さんの絵が各話の冒頭数ページに渡ってカラー掲載され、それがまたとても静寂感のあるエロティシズムを感じさせていて好みだった。ちなみに古くからある童話の内容とはまるで別の話になっているので念のため。ただ、世界観はけっこう好きなほうなんだけど文章の終わり方が尻切れトンボなのもあって、欲を言えばそこが少々不満だった。物語として一番せつなかったのは男の人魚を主人公に描いた「人魚宝石職人の一生」2014/05/12
Hideto-S@仮想書店 月舟書房
137
詰め合わせのキャンディ缶みたいな短篇集でした。ただし、甘いだけのキャンディは入ってなくて、苦いの、辛いの、酸っぱいの……大人限定のアソートです。それを官能的にパッケージした本。キャンディ屋の店内に設けられた〈忘れ物図書室〉には忘れられたおとぎ話が収められています。『赤ずきん』『人魚姫』『アリス』など親しみ深い童話に似ていますが、油断していると思わぬ刺激に目が白黒。グリムやアンデルセンも最初は残酷な話だったのが、時を経てソフトになっていったと言われます。この物語は、今は忘れられかけたおとぎ話の源流なのかも。2014/12/16
藤月はな（灯れ松明の火）
111
杏、薄荷だけではなく、紅玉、翠玉、果ては羊水、鬣などの味が揃っている飴玉工場の図書室に集められたエロティックな絵とおとぎ話の忘れ物達。「ずきん倶楽部」では「赤ずきんのずきんは本当に最初から赤かったのだろうか？」という疑問に駆られる。もしかしたら、か弱い存在とされる「少女」は「狼」に出遭う事で「鋏」を得る事ができるのかもしれない。「女」になって生きていくために。「狼」に遭ってもちょきん、と対処できるように。「アリスという名」は真逆のダジャレオチにがっくし（笑）しかし、「人魚宝石職人の一生」は純愛で感動。2017/03/03
tototousenn＠超多忙につき、読書冬眠中。
103
小川が語るのは、世界中の忘れ物保管室にひっそりと眠り、見つけられることをじっと待っていたおとぎ話の忘れ物。 赤い舌をたらした狼は籐籠に横たわる。傍らには少女を切り裂こうと裁ちばさみが転がる。アリスは肺の中に蟻を吸い込む。蟻は硝子箱のように心臓に膀胱に巣を張り巡らす。 キャンディーのようなおとぎ話。 薄荷、ジンジャー、珊瑚、鱗粉、羊水・・・。悪徳で甘美な味がいっぱいに詰まっています。 とっておきのキャンディーは樋上が描くエロティックな少女たちの キュッと結ばれた真紅の口唇の合間でとろりと溶けていくのです。2021/03/16
財布にジャック
86
おとぎ話って題名なので、こんなブラックな内容とは思わずに読み始めました。４つのお話のうち一番好きなのは、人魚姫をベースにした復讐劇でした。しかし、究極の赤頭巾作りやアリスの名前の由来もシュールなんですが、何故か魅かれてしまいます。スワンキャンディーに関連する最後の白鳥の話で締めくくってるその演出が、さすが小川さんでした。読み終わった今でも、ゾクゾクっとします。2011/02/28
