出版社内容情報
(覆された宝石)のやうな朝 何人か戸口にて誰かとさゝやく それは神の生誕の日。昭和8年椎の木社刊を底本に、振り仮名、仮名遣い等を底本通りにし、デザインを模した装丁で再刊。
著者等紹介
西脇順三郎[ニシワキジュンザブロウ]
明治27年1月20日、新潟県北魚沼郡小千谷町(現・小千谷市)に生まれる。大正6年3月、慶応義塾大学理財科を卒業。大正12年10月、オクスフォード大学ニューコレッジの英語・英文学専攻科に入学。大正14年3月、オクスフォード大学を中退。昭和32年1月、『第三の神話』で読売文学賞を受賞。昭和57年6月5日、死没。従三位に叙される
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感想・レビュー
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ヴェネツィア
222
(覆された宝石)のような朝―詩集劈頭の「天気」と題された詩の1行目がこれだ。技法からいえば直喩に過ぎないのだが、実に驚くべきイメージの氾濫ではないか。まさに衝撃的な表現だとさえ言える。しかも、これに続く詩集全体のイメージ表象も、およそ旧来の詩とは大きくその趣きを異にする。抒情の質がウエットではなく、どこまでも晴朗なのだ。それは、エーゲ海にきらめく光の粒子であり、オリンポスの神殿を輝かせる透明な光である。その一方で、第3詩集『近代の寓話』で自在に展開される西脇独特の諧謔もすでにその片鱗を見せてもいる。2013/02/20
毒兎真暗ミサ【副長】
29
1927年から活躍した西脇順三郎の詩集。覆された宝石……から始まる朝の【天気】は、そのたった三行に、濃蜜な澱を成している。『カンタベリー物語』になぞられているとすれば、戸口でささやく人、は喉を掻ききられながら歌を囁くということになり、鏤められた宝石が朝日に乱反射する中で、奏でられるのは『アヴェ・マリア』だろう。書名はギリシャ神話から。私の名前の由来に通じていて。そのまぶしさが、仄かに心に届く。2023/12/28
MO
1
「寡婦の手をもつた一つの雨が おれの頭髪を撫でる おれのトランクの上に腰かけてゐる おれの姉妹のいたましさよ おれのために泣け 鉄も鉛も恋ほどそんなに重くない」 「しかし海は死んだ葡萄酒である 人は岡に上り大なる緑の影をもつた アカシアの樹のそばでジット 残りたいと思ふ 太陽 ゴムの樹 軽便鉄道 虎 金銭が音楽的共和国を建てる」 「彼女は自分の座を取り囲む岩より年老いている 吸血鬼のように、何度も死んで、墓の秘密を知った 真珠飾りのアマとなって深海に潜り、その没落のひの雰囲気をいつも漂わせている」2020/10/12