生きる歓び―イデオロギーとしての近代科学批判

生きる歓び―イデオロギーとしての近代科学批判

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  • サイズ A5判/ページ数 268p/高さ 22cm
  • 商品コード 9784806723486
  • NDC分類 519.225
  • Cコード C0036

出版社内容情報

もう一つのノーベル賞といわれる「ライト・ライブリフッド賞」を受賞したシヴァの代表作。西欧で生まれた近代科学が、いかにして自然の断片化と経済市場の世界化をもたらしたのか。それが、人びとの生きる歓びと働く意味をどのように破壊してきたのかを、豊富な事例をもとに歴史的に検証する。森林問題、水問題、農業と遺伝子資源問題、世界銀行問題などの世界的な環境問題キャンペーンで中心的役割を演じる、今日のインドを代表する知性が、「生活の尊厳」の意味と、その復権を呼びかける。  ★★★エコノミスト評(1995年3月28日号)=生存のためのもう一つの科学技術論。一読して、印象に残った二つの点。その第一は、本書にはインドに根づいたマハトマ・ガンジーの伝統が一貫して流れているということである。第二は、その「先駆的な洞察と実践」により、もう一つのノーベル賞といわれる「ライト・ライブリフッド賞」を受けたことである。彼女の世界的な評価が端的に示されたというべきであろう。★★★出版ニュース評=さまざまな悲惨が語られ、それに対して屈しない女性原理が、高々と掲げられ、女たちのエコロジー運動の知恵、価値、生きる喜びが記されている。★★★  ●●●「訳者あとがき」より=本書を読みながらガンジーのことを想った。著者のヴァンダナ・シヴァさんは1952年生まれというから、ガンジーとはだいぶ世代が隔たっている。しかしこの書物には、インドに根づいたガンジーの伝統が一貫して流れているように思えてならない。そこには西欧文化に対して毅然と立ち向かってきた知的な伝統があり、非暴力を旗印に決して屈しなかった不服従運動の伝統がある。実のところ、シヴァさんがこんなに若い女性だとは、つい最近まで知らなかった。今から10年ほど前、インドの森林問題を扱った彼女の初期の論文をはじめて見て、非凡な論客であることはすぐにわかった。強靱な思考と妥協を許さぬ鋭い切り込みはただものではない。さらに本書で明らかなように、科学思想から生態学、天然資源管理にいたるまで、その幅広い知識に驚かされる。30代の前半でこのような書物が書けたのも、ガンジー以来の長い伝統がその底流としてあったからであろう。1993年にシヴァさんは、もう一つのノーベル賞といわれる「ライト・ライブリフッド賞」を授けられた。「今日の開発プロセスに内在する環境費用と社会的費用に関して先駆的な洞察」をおこなったことと、「地域の人たちや地域社会とともに開発に代わるオールタナティブを主張し実践してきた」ことによるものである。科学哲学の博士号をもつシヴァさんは30歳で科学・技術・天然資源政策研究財団を設立し、学究としての卓越した仕事もつづける一方、インドの女性たちの人権と環境を守る草の根運動に20代から参加してきた。本書はいわばこの二つの側面、つまり卓越した知識人としての側面と、行動力のある運動家としての側面が組み合わさって誕生したものである。筆者自身の表現を借りれば、女性たちの運動に参加していくことで「生命を支え、守ろうと闘っている人たちの苦しみと洞察に教えられ、この人たちの闘いを見て、生命を破壊し、生存を脅かす『進歩』『科学』『開発』なるものの意味を改めて問うことになった」という。「よその国に来て生き方を教えてやるとうそぶく連中をここに来させ、本当の生き方を知っている男や女や子どもたちに会わせよう。彼らによって生きる歓びをまだ抹殺されていない人たちに会わせるのだ」援助する先進国の傲慢さを、援助される側からこれほど辛らつに批判した言葉を私は知らない。われわれは所得の低い途上国を見ると、すぐに不幸なことだと決めつけ、開発が必要だと即断する。しかしシヴァさんに言わせれば、先進国の男たちの生き方こそ間違っているのであって、世界中が開発に毒されてしまった現在の時点で、真に持続可能な生き方を提示できるのは第三世界の農村に生きる女たちだけだということになる。先日、日本の外務省は平成六年度の『ODA白書』を発表した。世界最大の援助国として、世界の援助政策をリードする「リーディング・ドナー」になるべきだという。これはこれで結構なことだが、少しばかり心配なのは、本書に書かれているような開発の負の側面を多くの日本人が理解していないということだ。資源に乏しく、外国からの輸入もままならない貧しい途上国で開発が強行されたらどうなるか。同じ国のなかで資源の奪い合いが激しくなるだろう。その結果、回復不能なまでに資源が酷使されるかもしれない。インドを含む多くの途上国で社会的な不公平が拡大し、生態系の荒廃が進行した。日本にいると経済成長の明るい面ばかりが見えて、暗い面がなかなか見えてこない。第三世界の貧しい人びとからの異議申し立てが強まっていることに、われわれはもっと留意すべきであろう。本書の翻訳に踏み切った最大の理由がここにある。●●●  【主要目次】▲▲第1章・開発とエコロジーと女たち=西洋的家父長制の新たな企みとしての開発/女性原理の死と負の開発/二つの成長と二つの生産性/2種類の貧困  ▲▲第2章・科学、自然、性=家父長制の企てとしての近代科学/還元主義の暴力/利潤、還元主義、暴力/2種類の事実/2種類の合理性/近代科学とエコロジーの危機/自然と非自然の分割  ▲▲第3章・自然のなかの女たち=女性原理としての自然/生命の生産者としての自然と女たち/ジェンダーのイデオロギーと女性原理  ▲▲第4章・森林のなかの女たち=アランヤニ---女性原理としての森林/植民地主義と男権的林業の展開/チプコの女たち/植林事業と還元主義/「社会林業」と本文「魔法の」木/近づく共有地の悲劇/植民地時代の遺産---「荒蕪地」としての共有地/共有地を守り土壌を救う/「スーパーツリー」の育種---究極の還元主義/多様性の回復、共有地の回復  ▲▲第5章・食糧連鎖のなかの女たち=西洋のパラダイムとしての緑の革命/女たちを食糧生産から追放する/奇蹟の種子---女性原理の除去/多収穫の神話と食糧自給/緑の革命からバイオテクノロジーへ/土壌の死/在来農業の土づくりの戦略/緑の革命---砂漠化の秘法/微量養素の欠乏と毒性/湛水と塩類砂漠/地下水の汲み上げと乾いた砂漠の出現/土壌の権利を尊重する/殺虫剤---毒される生命の織物/「改良」品種の茶番劇/病害虫を育てる農薬/非暴力的な病害虫管理---自然と女たちと小農民に学ぶ/白の革命の暴力/遺伝への暴力としての交雑/自然の断片化と市場の統合  ▲▲第6章・女たちと消えていく水=水源の消失/河川への暴力としてのダム/深井戸と地下水の枯渇/水の専門家としての女たち  ▲▲第7章・母なる大地---女性原理の再興

内容説明

西欧で生まれた近代科学は、自然の断片化と経済市場の世界化をもたらした。それが、ひとびとの生きるよろこびと働く意味をどのように破壊してきたのかを、豊富な事例をもとに歴史的に検証。今日のインドを代表する知性が「生活の尊厳」の意味とその復権を呼びかけた代表作。

目次

第1章 開発とエコロジーと女たち
第2章 科学、自然、性
第3章 自然のなかの女たち
第4章 森林のなかの女たち
第5章 食料連鎖のなかの女たち
第6章 女たちと消えていく水
第7章 母なる大地―女性原理の再興

感想・レビュー

※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。

taming_sfc

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1994年のヴァンダナ・シヴァによる訳著。デカルト以降の西欧科学による世界の席捲を、還元主義的科学の支配として把握し、これに対置されるインドにおける女性による環境配慮・エコロジーを指摘し、近代科学技術に対する強烈なアンチテーゼを展開する。その後のシヴァの訳著の方が読みやすいとは思われるが、じっくりシヴァの思索の世界をさまよいたい方には、本書がお薦め。舌鋒鋭く矛盾をつく議論の展開には、その内容に対する賛否は別として、多くの方が尊敬の念をいだくはずである。2011/04/08

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