出版社内容情報
のどかな老夫婦の日常を一瞬にして引き裂いた原子爆弾。核兵器の恐ろしさをリアルに伝える世界的ベストセラー、新訳で待望の復刊。 小学校低学年~中学生
内容説明
この『風が吹くとき』は、もともとイギリスで1982年に出版された作品で、日本語訳は以前別の出版社で出ていましたが、今回翻訳をし直してあらたに出版することになりました。出版当時から、漫画のコマ割りの手法を使ってシリアスな問題を描いた、絵本の常識をくつがえす作品として、大きな評判を呼んだ作品です。それから15年以上たった今、ソ連は崩壊し、米ソ2大国が国際政治を大きく左右していた時代は去って、世界の情勢はもっと複雑になってきているように思えます。しかし、最近のインドやパキスタンの核実験で明らかになったように、核兵器をパワーゲームの切り札とみなす風潮はまだまだ盛んです。そういう意味では、核戦争の脅威は去ったわけではありません。まだ、核は使用しなくても、ジムやヒルダのようなふつうの人たちが犠牲になる戦争は、世界各地で多発しています。レイモンド・ブリッグズがこの絵本で描こうとした状況は、表向きの形は変わっても、今でも存在しているのです。この絵本が、親子いっしょに、もう一度核の問題、そして戦争の問題を考えるきっかけになってくれれば幸いです。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ヴェネツィア
330
表紙からすれば絵本のように見えるが、実態はコミック。ガーディアンの1000冊は長編小説から選定されるとのことだったが(だから、シェイクスピアが入っていないことにも一応は納得していた)、どうも選定基準がよくわからない。そうした、表現形式のことはおいても、本書には疑問が多い。まず、かつての世界大戦をノスタルジックに回想することで半ば肯定してしまっていること。しかも、凶悪なヒットラー枢軸vs善良な私達という構造だ。そして、現在もやはり悪のソ連vs私達だ。自分たちの外側を「悪」とするのは極めて危険な論理だ。⇒2015/06/25
遥かなる想い
310
もともと1982年にイギリス で出版されたこの絵本は 漫画の形をとりながら、 核の恐怖を描く。 ジムとヒルダのような 普通の人たちが簡単に犠牲 になる日常に潜む恐怖を この絵本は淡々と描く。 ソ連が崩壊した後も続く 世界各地での紛争…表紙の 仲の良い老夫婦とその 背後に描かれる核の爆発の 対比が本書の中身を 象徴しており、絵の基調が 青白く変わっていくのが 密かに怖い。2015/11/08
やすらぎ🍀
211
大惨事が起こる前の日常は、こんな感じなのだろう。ごくありふれた生活がそこにはあり、朝食を取り、団欒している。しかし今、遠くの空を飛行機が飛び、鉄の物体を積んでいる。…ほんの一部の人間以外は被害者にしかなり得ない戦争。爆風に耐えた夫婦が体験した、核兵器に侵食される恐ろしさを描く。…今や世界の覇権争いは形を変え、国家を破滅させる力を持ったサイバー攻撃が世界中を混乱に陥れている。…人間はいつまで争い続けるのでしょう。争わないという未来は描けないのでしょうか。いつの時代にも平和を願っている人は沢山いるのですから。2021/08/08
zero1
136
核戦争は無知の老夫婦を容赦なく殺す。福島原発事故を起こした日本人なら無関係ではいられない作品。年金生活の老夫婦ジムとヒルダは英国で暮らしていた。戦争が勃発したことを知る二人。核ミサイルでの直接被害は免れたが、放射線が二人を襲う。政府のパンフレットを信じて簡易シェルターを作る点など不憫。86年にアニメ化(後述)。知らないということがどれだけ危険か。核兵器禁止条約に署名せず、事故後も原発再稼働を推進し、輸出までする日本は【信じられる政府】?何度でも再読して【核】について考えたい作品。レビュー210件は少ない!2020/01/13
まふ
125
1982年(ソヴィエト崩壊の8年前)東西冷戦下、核の脅威が身近に迫っていた時に出版されたマンガによる核被爆の物語。善良で無知な年金生活者夫婦が政府のマニュアルに従って核シェルターを自前で拵えているうちに本当の核弾頭がロンドンに打ち込まれる。夫婦はその後も政府への全面的な信頼を抱きつつ放射能汚染により死んでゆく…。ヒロシマの話も取り込まれ我々には身近なストーリーだが、英国の読者にはさぞかし衝撃を与えたであろう。改めて核の恐ろしさを感じた。G1000。2023/11/19