世界の教育改革〈2〉OECD教育政策分析―早期幼児期教育・高水準で公平な教育・教育的労働力・国境を越える教育・人的資本再考

  • ただいまウェブストアではご注文を受け付けておりません。
  • サイズ A5判/ページ数 215p/高さ 22cm
  • 商品コード 9784750323565
  • NDC分類 373.1
  • Cコード C0037

出版社内容情報

すべての人に公平で質の高い生涯学習の機会を提供するためにはどうしたらよいのか? 早期幼児期教育、初等・中等・高等教育、そして成人教育までを視野に入れ、OECD諸国の教育政策を様々な角度から国際比較可能なデータを基に分析する。

監訳者まえがき
はじめに
第1章 早期幼児期教育と保育制度――改革のための政策戦略
 序:8つの指針
 1 教育制度の発展と統合を目的とした体系的なアプローチ
 2 教育制度との強固かつ同等なる提携
 3 普遍的なアプローチ
 4 実質的公共投資と基本設備
 5 幼児教育の質の向上と保証を目的とした参加型アプローチ
 6 スタッフに対する的確なトレーニングと労働条件
 7 評価、モニタリングおよびデータ収集への関心
 8 研究と評価の構造、および長期的計画
 9 結論
第2章 高水準で公平な教育をめざして――PISA2000からの洞察
 1 はじめに
 2 生徒の成績の質と公平性について明らかにする
 3 質と公平性は相反するか
 4 政策への指針
 5 結論
第3章 教育的労働力――教員不足の懸念と政策課題
 1 はじめに
 2 教員不足の原因は何か?
 3 政策的手段と挑戦
 4 結論
第4章 国境を越える教育の拡大
 1 はじめに
 2 学生移動:焦点は文化的なことから金銭的なことへ?
 3 教育サービス貿易の新しい形態
 4 教育貿易とGATS
 5 国際的な質保証と認証
 6 結論および政策課題
第5章 人的資本再考
 1 はじめに
 2 人的資本は所得にどう影響するか:その証拠
 3 人的資本のより広い概念
 4 測定へ向けて:学習プロセス
 5 政策的関与の文脈
 6 政策と研究に対するインプリケーション

はじめに
 2001年のOECD教育大臣会議で、OECDの教育事業は今後5年間「万人のための能力(コンピテンシー)への投資」というテーマに沿って行うとされた。このテーマはいうなれば、何かを学ぼうとする時に必要となる基礎的能力や、知識社会で活動するにはどうしても必要な高水準の知的・社会的能力を、すべての市民が身につけられるようにすることを言い換えたものといえる。「万人のための能力への投資」は1996年に教育大臣会議によって示された「万人のための生涯学習」(訳注:以前の訳は「すべてのひとに生涯学習を」)の実現の延長線上にある。
 教育政策は、徐々にではあるが、学習活動のすべての側面を視野に収めることができるようになりつつある。たとえば就学前の年齢に始まり、初等・中等・高等教育、そして成人教育までもが視野に入ってきている。教育は学習に必要なしっかりとした土台を作るべきであるし、また、誰もが学びたいという意欲を持ち、またその意欲を生かす方法を知ることで、継続して学び続けられるようにするべきである。教育政策は長期的視点と多角的視点の両方をもってアジェンダ(計画)を作る必要がある。ただしアジェンダが広範囲にわたることによって、どこに優先順位を置いたらいいのか、新戦略がとられたらどの程度効果があがるのか、といったことが問われることになる。毎年出される「教育政策分析」の報告が、そうした議論の一助となればとわたしたちも思っている。
 すべての幼い子どもたちが生涯学習に力強いスタートを切れるよう、質の高いプログラムが必要だということは次第に認識され始めている。学習の当初において不平等があれば、後でそれを修正するにも多くのコストがかかってしまうだろうし、個人としてはダメージを受けてしまうし、社会的には格差が広がってしまう。ただ、多くの国では、わかってはいるものの幼児期を対象とした教育政策もプログラムも、依然として個々バラバラなままである。そこで、本書第1章では、各国の現状と最新の研究について報告し、そこから個々に行われている幼児教育が有機的につながりあうための方策を示すこととする。
 OECDはまた、生涯学習のしっかりとした土台を作りだす学校レベルの政策の改善に努めている。たとえば、OECD生徒の学習到達度調査(Programme for International Student Assessment:PISA)は、15歳児の読解リテラシー、数的リテラシー、科学的リテラシーの到達度が国内でも、また国家間比較においてもかなり異なるということを指標化している。しかしながら、本書第2章で報告されているように、PISAを詳細に分析すると、学習成果が平等に分配されている国では成績水準も高いということがわかった。高水準で公平な教育は、政策課題としては競合しないということを見ておく必要がある。
 社会環境の変化に適応するために、そしてあらゆる人たちの学習要求を満たすために、学校が何をすべきかを考えるなかで、OECD加盟国の教育大臣たちは教員の教育力を特に重要視している。しかしながら、質の高い教員を適正な数だけ供給し続けるというのはどの国にとってもとてもむずかしい問題である。また、すでにプロとなっている教員たちにスキルアップを求めることもむずかしい。本書第3章では、教員不足の問題によって、量だけではなく質までもが問題となっている点を論じた。そこではまず、教員供給が不足するという国際データを概観し、教員不足の進行に対応する政策が必要であることを示し、その上で今後考えねばならない政策ツールの概略を示した。
 何とかして学びたいと思っている学生たちが増えてきたとき、他国に留学するのも1つの方法であるが、それ以外に、自宅に居ながらにして海外の教育サービスにアクセスするという方法もある。eラーニングの急激な進展や、さまざまな形の教育・訓練提供者たちの競争によって、この傾向はより加速している。進展状況についてのデータはまだ不完全ではあるが、本書第4章では、国境を越えた教育活動の新傾向のいくつかを紹介している。各国の教育システム間に連続性が持たれるようになってきたが、それによってまた新たな問題、すなわち学生たちのアクセスの問題、教育機関の財政上・法務上の問題、質の保障の問題、などに国際的視点から取り組まなければならなくなってきている。
 人々が学びたいと意欲を持つこと、そしてまた学ぶための手段を理解しているということは生涯学習を進める上で土台となることである。これらのことの重要さを、本書第5章で特に述べている。そこでは「人的資本」という概念が、生産能力といった直接的な概念から、1人の人物が自分のスキルを磨くことができ、維持することができ、しかもうまく運用できるといったような個性を意味するようになってきているということを、最近の実例から論じている。個性といわれるものには、学習をする能力があったりやる気があることも含まれるし、必要なことを効率的に見つけることができる力や、作業をうまく運ぶことのできる人柄や、仕事がうまくいくことを人生の喜びと感じる能力も含まれる。以上にあげたような能力は、人々の社会的成長や人間的成長だけでなく経済的成功にとって大変重要なものであるが、そうした能力については教育政策や教育プログラムにおいても、もっと意識的にとりあげるべきであろう。
 これらの重要な課題に加盟国が取り組むときの一助となるよう、OECDも教育に重きを置くようになってきている。2002年9月1日には教育局が新設された。OECD事務総長が述べているように「教育の問題は今後も、雇用、社会問題、科学技術、ガバナンス、マクロ経済といったような他の分野の問題と深い関係を持ち続けるであろうが、教育の重要性を示す意味でも独立的な地位が与えられた」のである。このように教育の問題が重要視されるようになった背景には、加盟国においても教育に重点が置かれるようになり、人々の能力開発が総合的に行われるようになった点がある。きちんと教育を受け、現在も学習を続けている人がいるということは、社会的発展や経済的発展の基礎となるのはもちろん、それ以上に、その人たち固有の権利を実現するという重要な目標でもあるのだ。

内容説明

学習への需要がますます高まるにつれて、OECD加盟国は、より広範囲に及ぶ教育と訓練の機会を幼児期から成人期にいたるまでの生涯を通じて提供できるように努力している。また、資源を効率的に活用し、最も不利な人々に機会を提供するべきとの社会的圧力もある。本書を構成する5つの章は、これらの課題の克服のための方法について、最新の国際的な実践をもとに分析している。

目次

第1章 早期幼児期教育と保育制度―改革のための政策戦略(教育制度の発展と統合を目的とした体系的なアプローチ;教育制度との強固かつ同等なる提携 ほか)
第2章 高水準で公平な教育をめざして―PISA2000からの洞察(生徒の成績の質と公平性について明らかにする;質と公平性は相反するか;政策への指針)
第3章 教育的労働力―教員不足の懸念と政策課題(教員不足の原因は何か?;政策的手段と挑戦)
第4章 国境を越える教育の拡大(学生移動:焦点は文化的なことから金銭的なことへ?;教育サービス貿易の新しい形態;教育貿易とGATS;国際的な質保証と認証;結論および政策課題)
第5章 人的資本再考(人的資本は所得にどう影響するか:その証拠;人的資本のより広い概念;測定へ向けて:学習プロセス;政策的関与の文脈;政策と研究に対するインプリケーション)

著者等紹介

御園生純[ミソノウジュン]
法政大学・専修大学非常勤講師。特定非営利活動法人ARBA代表理事

稲川英嗣[イナガワエイジ]
飯田女子短期大学専任講師

川崎陽子[カワサキヨウコ]
特定非営利活動法人ARBA副代表理事、特定非営利活動法人・人間環境ネット21理事。専門は幼児教育。現在ベトナムのドンナイ地区での幼稚園支援活動に従事

小杉夏子[コスギナツコ]
東北大学大学院教育学研究科博士課程在学

高橋聡[タカハシサトシ]
岩手県立大学助教授(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。