出版社内容情報
生物としてのヒトはどのような生き物か。生物進化の頂点に立つとされながら、自ら生み出した文明のために衰退への道を辿りつつある人間は、かつて恐竜やマンモスが絶滅したように自己の肥大化する「能力」のために絶滅が運命づけられているのかもしれない。
はじめに
第1章 人類は地球生物圏内のガン細胞か?
第2章 ヒトはどんな種か?
第3章 大進化の様相
第4章 いつから人間になったのか?
第5章 自己家畜化と人間
第6章 絶滅――生物界の組み替え
第7章 社会生物界、人類生物界の出現
第8章 近づく人為的生物界の自己崩壊
第9章 人間活力の衰退
第10章 いまだ見えざる危機克服の手段
補 論
あとがき
はじめに
地球環境問題に人類が再び目を向けた八〇年代以来考え続けていた問題を、今から一六年ほど前に論じたのが本書の初版(一九八九年、TBSブリタニカ)です。
八〇年代末に私は、当時まだ朝日新聞社に在籍していた石弘之氏(後に東大教授から大使にまでなった)と、次のようなことを話し合いました――このように地球環境への強い関心がいつまで続くだろうか。彼は忘れているかもしれませんが。
というのは、私たち二人は、一九七二年にストックホルムの人間環境会議で提起されて以降七〇年代に広まった環境問題への関心が八〇年代にかけて急速にしぼんでいった経験を共有していたからです。
一九九二年にリオデジャネイロで開かれた地球サミットに向かっての熱気は、会議の少し前から実際に急速に冷えかけていました。前回の七〇年代にくらべて国連ではUNEPをはじめとして問題への関心を維持させようとしていましたが、不況の下で「開発志向」は秘かに進んでいました。一九九二年の会議でも環境保全志向は弱められていましたが(その典型例はアメリカの生物多様性条約への署名拒否)、会議後は表向きとは異なり、不況の訪れとともにいっそう裏では開発経済発展指向が的方法をとりましたが、その推論の論拠は、最近よく行われるような分析的方法だけでなく、論理をさまざまな方法により展開しました。
以上のような立場で記述した本書ですが、一九八九年以降、地球上にはそれ相応の変化があり、私が追求していた論理展開も、より広く深まりました。それまでよりも人間の世界における人間の危機が深刻になっているように思えるのです。そのことと関連して、自然の危機が自然が「自然」でなくなるという形で進行しているように思えるのです。そこで今回、それを主に欄外の加筆と巻末の補論とで記し、版を改めることにしました。
なるべく初版当時の思考を残すようにしましたが、構成を一部変えたところもあります。さらに展開や加筆の必要な部分、また図版等を示したほうが理解を深めると思われる部分など、かなり手を加えたところもあります。論理も同様です。
巻末の補論には、さらに新たな視点を加えました。二〇〇五年の地球上の自然と人間のあり方について、論理の構造上から記録することが、私にとってはとくに大切に思われたからです。また、一九六〇年代以降、同じような問題意識をほぼ半世紀ものあいだもち続けてきたフィロソフィと論理展開とをとその質量ともの大きな変化が、ヒトとしての人間の適応的な変化のスピードにくらべ、あまりにも大きくなってきているため、「適応可能か否か、できないときは」という論理でした。だが、その後の論理の変化は、基本的には、むしろさまざまな方法での適応を成しとげたところに問題点と恐れを感じているというのが論旨です(『現代ホモ・サピエンスの変貌』と題した朝日選書の一冊で展開した)。
今回、本書においては、初版で取りあげたような絶滅とは別の、新たなシナリオを論証しようとしました。それは、「自己人為淘汰」による身心の「自己家畜化」が環境条件の選択の方向(それを選択する可能性が強化されることも含めて)において、人間(ヒト)の知性を喪失させる「奴隷制」的な可能性を現実の中で進行させ、さらには新たに自然の進化の性質も変化させていくというものです。奇妙な表現ですが、自然の「家畜化」「人工化」です。これが現在の私にとっては新しい恐怖と危機なのです。人間(ヒト)が、形質は変わらないままに、異なる人間(ヒト)となる、自然が異なる「自然」になるといいたいのです。私は以下にその論拠を示したつもりです。しかし、この論拠は社会人文科学者にも、生物学
目次
第1章 人類は地球生物圏内のガン細胞か?
第2章 ヒトはどんな種か?
第3章 大進化の様相
第4章 いつから人間になったのか?
第5章 自己家畜化と人間
第6章 絶滅―生物界の組み替え
第7章 社会生物界、人類生物界の出現
第8章 近づく人為的生物界の自己崩壊
第9章 人間活力の衰退
第10章 いまだ見えざる危機克服の手段
補論
著者等紹介
小原秀雄[オバラヒデオ]
1927年東京生まれ。国立科学博物館助手を経て、1969年女子栄養大学教授(生物学)、1998年定年退職、同大学名誉教授。専門領域は、哺乳類論(動物学)、人間学、環境科学(自然保護論)ほか。国際哺乳類学会、国際自然保護連合(IUCN)、世界自然保護基金日本委員会(WWF‐J)等の国際関係役員、総理府動物保護審議会委員等を務め、現在、NPO法人野生生物保全論研究会会長、総合人間学研究会代表幹事、日本環境会議代表理事、ヒトと動物の関係学会顧問等を務める。世界野生生物基金(WWF‐I)から保護功労賞(1982年)、国連環境計画(UNEP)からグローバル500賞(1988年)のほか、毎日出版文化賞(1966年)、産経児童出版文化賞(2003年)等受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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