内容説明
ソクラテスのような上層市民から解放奴隷アゴラトスまで、紀元前5世紀末、ペロポネソス戦争に敗れ、寡頭派と民主派の内戦に明け暮れるアテナイに生きた4人の姿をとおして、古代ギリシア社会における市民と非市民のあり方を考える。
目次
第1章 アテナイの住人たち
第2章 ふたりの情報提供者
第3章 アゴラトスの背信と誠実
第4章 リュシアスとソクラテス
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
えふのらん
5
ソフィストとか対話篇に関係のある本だと思って手に取ったらペロポネス戦争から遡ってソクラテスの死因を探る、というもので想像の斜めをいく内容だった。そしてかなり暴力的。結論から言えばスパルタによる戦後処理の過程で生まれた三十人僭主政の指導者がかつて弟子で、ソクラテスの裁判は圧制への意趣返しの一環だったらしい。何せ僭主性権下では反政府活動家の弾圧(処刑)は当たり前で、密告によるあぶり出し、逼迫した財政を富者から没収した財産で補うという暴政ぶりだった。2022/11/23
iwasabi47
2
他の方がいいレビュー書かれているので、それは譲ります。ソクラテスが他の市民にどう見られていたかのヒントがなるほどと思いました。30人政権下での政権批判的行動したが、政権からお咎めなかった。それが30人政権の同じ系列の人物だと考えられた。他には、市民が同胞と争う時に市民同士では憚れるので、争点の情報提供者としてメトイコイや奴隷(拷問可、市民は不可)、女性(参政権不可)が身代わりになる。フーコーのパレーシア(条件不利なものが真理をいう)を考えさせられる話。2020/08/23
ne_viderem
2
「ソクラテス」の名を冠しているわりにあまりソクラテスとは関係ない本その2。ソクラテスは後半にちょこっと出てくるのみ。しかもあとがきで「御大ソクラテスはとても太刀打ちできる相手ではないと思え、また、かねがねあまり好意を抱いてもいなかったので、令名を拝借するだけで、直接の対面はできれば避けてしまおうと考えていた」とあまりにぶっちゃけすぎてて草生えましたw(しかし誤解は避けねば。これはもう完全に桜井せんせいの韜晦であって、コンパクトではあるもののソクラテスの死の背景にあったものをきちんと書いてらっしゃいます)2018/10/23
in medio tutissimus ibis.
1
紀元前三九九年、アテナイ。ペロポネス戦争に敗れ、寡頭派と民主派との内戦の傷跡癒えぬこの地で一人の男が人を殺したとて裁判にかけられた。男の名はアゴラトス。自由人でありながら市民権を持たないメトイコイである彼は、かつて民主派弾圧に加担した情報提供者であり、また民主派の蜂起に真っ先に加わった男でもあった。今日残っているのは彼を告発する文書と、彼の功績を記した碑文のみである。本書はアゴラトスと、彼に対比される三人の男の人生を通して、古代ポリスのマージナルな領域、即ち「メトイコイ」と「公と私」を生き生きと描き出す。2015/10/30