内容説明
われわれはなぜ過去を知りたがるのだろう。それも自分自身の生い立ちや「家」のルーツに止まらず、日本という国や、さらには訪れたこともない他国の歴史についてまで。このような過去にたいする関心の高さや記録保存への執着心は、決して人類に共通の普遍的な現象ではない。本書では、このような現象は歴史上いつごろから認められるのか、過去についての集団的記憶はどのように形成され受け継がれていくのか、またこの記憶の歴史的・社会的な意義・機能はなにか、といった点について史実に即しつつ検討する。
目次
記憶と歴史
1 「歴史」と時間意識
2 メソポタミアとエジプト
3 イスラエルとギリシア
4 中国人の歴史意識
著者等紹介
蔀勇造[シトミユウゾウ]
1946年生まれ。東京大学文学部卒業。東京大学大学院人文科学研究科博士課程単位取得退学。専攻、アラビア古代史、東西海上交流史。現在、東京大学大学院人文社会系研究科教授
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感想・レビュー
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へくとぱすかる
42
カバーのフェルメールの絵、そして映画「ブレードランナー」を導入にして、記録と時間意識についての話から始まる。たとえ記録がなくても、過去の人類はさまざまな営みを行っていただろう。できごとを記録し始めたとき、そこにどんな意識が生まれていたか。現代のように、記録しなければ貴重な記憶が失われるとか、ありのままに客観的に記録を残そうという態度は、相当に後世になってから生まれたものであるということ。歴史は一回性のものだと気がついていないと、人間は記録をしっかり通して残そうとはしないものらしい。循環的時間観念ではねえ。2022/06/20
MUNEKAZ
14
リブレットでやるにはあまりに壮大なテーマではないのかな。「記憶」から「記録」、そして「歴史」へという記述の変化をメソポタミア、ユダヤ教徒とギリシャ、中国の事例から紹介しているのだが、著者の専門からか後に行くほど内容が薄くなる(中国の章なんて川勝義雄の説を紹介しているだけでは)。ただ時間や歴史の概念が文化圏ごとに違うというのは面白いところ。『時が未来に進むと誰が決めたんだ~』2023/02/06
サアベドラ
11
メソポタミア、エジプト、イスラエル、ギリシア、中国における歴史叙述の発生とそこに見られる歴史観の違いを略述。古代インドで歴史叙述が発達しなかった理由もちょろっと書いてある。非常に興味深いテーマではあるが、本書は十分に煮詰められておらず、調べてきたものを寄せ集めただけ、といった印象が拭えない。また、近現代における国家アイデンティティの一部としての歴史叙述も軽く触れられているのみ。なお、著者の専門はアラビア古代史で、この手のテーマを扱う分野である歴史哲学や史学史の専門家というわけではないようです。2013/04/08
africo
5
人類最初期の歴史叙述、歴史意識について、古代オリエント、古代ギリシア、古代中国の3系統から解説する。著者はアラビア古代史がご専門のようで、古代オリエントについては具体的かつ積極的な評価が見られ、ページ数は短くても読み応えはある。が、古代ギリシアは通り一遍、古代中国に至ってはページすら殆ど割かれてない有様である。タイトル的に形だけでも中国は押さえないと、という感覚なのだろうか。まあ、編集上の都合なのだろうけど。どうせなら専門の範疇に絞って内容が深まっていたらモヤモヤもせず内容も満足できたのだろうに残念です。2022/01/15
こっこ
3
★★★★☆ 本書は山川出版社「世界史リブレット」シリーズの中の一冊である。このシリーズは古代から近現代、アジア欧州アフリカ、宗教からファシズムまでと非常に多岐多様に亘るテーマで100冊近く刊行されており、非常に読みやすい「テキスト」である。ページ数も80頁程度で、本文上部に脚注が掲載されており参照しやすい。私も本書読後、次はどのようなテーマの本を読んでみようかと読書意欲が湧いてくる、そんな良書、良シリーズだ。2017/07/17