内容説明
ドン・キホーテの妄想を可能にした行商本屋による書物の流通。バルザックが描き出した十九世紀パリ出版業界の闇。二十世紀文学の産婆役をはたしたパリの小さな書店たち…。本はいつの時代も、「文化」と「商品」の二律背反のなかで、たいていは世知辛く、時折華やかな存在を刻んできた。その舞台はもちろん、多様な姿で歴史に現れた書店群。書物と文化、文学を取り巻く麗しい神話と過酷な現実。「本」をめぐる近世~近代ヨーロッパの多彩なドラマを描く。
目次
書物と書店の出現
行商本屋の巡回
ゲーテとイタリアの書店
貸本屋の登場
バルザック『幻滅』の書籍商
古本屋の位置
三文文士の肖像
キオスク書店の開店
ドイツの出版社と書店
オデオン通りの「本の友書店」
シェイクスピア・アンド・カンパニイ書店
ディドロを再考する
著者等紹介
小田光雄[オダミツオ]
1951年静岡県生まれ。早稲田大学卒業。書店勤務などを経て、現在出版社の経営に携わる
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感想・レビュー
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Nobu A
9
小田光雄著書4冊目。04年刊行。出版業界に関することなら右に出る者はいないではと思う。そもそもこの手の本を書きたい人が多くいるのかも疑問だが。近代小説の嚆矢とも言えるセルバンテス著書の「ドン・キホーテ」が17世紀初頭にスペインで出版。欧州の書物市場は既に現在の印刷、流通、販売体制が粗方整っており貸本屋まで存在。高価だったからこそ。表現の自由や政府の抑圧等、時代の変遷に触れ、とても興味深い内容。現在ネットの影響で大きく変わりつつある出版業界。グーデンベルグの活版印刷の影響力を改めて痛感。歴史に想いを馳せる。2024/03/14
あんどうれおん
4
作品を商品にすることの難しさを明らかにする一冊。初めて読んだ小説が面白いと思ったのに、続編の刊行は何年も前に打ち切られていた、という現象は多くの方が経験しておられることと思います。どうもこれは近現代だけの問題ではないようですね。できることならあまり直視したくない未来について、それでも前向きに取り組むためのヒントをもらえたような気もします。良書です。2022/04/04
てつこ
2
印刷技術の発明から急拡大した書物市場の歴史をまとめたもの。近世から近代ヨーロッパが舞台。行商本屋や貸本屋により読書文化が広がるにつれて、かつて神聖なものとされた文学が、大量生産、大量消費される商品となる。バルザックやギッシングなどの作品から、書物や出版に関する記述を抜き出して解説する章が面白い。2018/08/20
sasha
2
文学は作品なのか、商品なのか。2009/12/07
mamewo
1
アドリエンヌ・モニエ、シルヴィア・ビーチの名前を知れたことが最大の収穫だったが、それを差し引いても出版を軸としたヨーロッパの文化史に触れることができ、とてもよい読書体験だった。2015/12/01