内容説明
水仙・椿・薔薇・コスモス…「龍彦の国=ドラコニア」に咲く25の花々を描いた、生涯の最期を飾る優美にして閑雅な博物誌、東西の植物画75点をオールカラーで収録。
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ヴェネツィア
213
本書は、澁澤龍彦の最晩年ーとはいっても59歳なのだがーのエッセイ。出版が1987年の5月で、同年の8月に亡くなっているので、ほとんど辞世の書物といってもいいくらいだ。全編にわたって澁澤色が横溢するが、やはり往年のそれとは微妙に違っている。どこか、日本回帰のような風が見られるのだ。和歌や俳句からの引用も多く、自宅の庭への言及も多いようだ。もっとも、エニシダとジュネのくだりのように、澁澤にしか語れないものも存分に見られることも、また確かなのだが。それにしても59歳は、我々にとって、あまりにも早い別れだった。2014/11/12
(C17H26O4)
53
博覧強記ぶりは垣間見られるが、かなり控えめなので読み易い。主に文学作品の中の花々についてや、花々にまつわる自身の思い出が大らかな雰囲気で書かれている。澁澤は植物にとても親しみを持っていたようで、他所で見た木を取り寄せて家の庭に植えてみたりしている。各花に様々な植物図譜からの美しい図版がオールカラーで添えられていて、これを見るだけでもとても楽しい(そのためか文庫なのに定価1500円もする。中古で買ったけど)。菊の花のページで「サド文学は四季をわかず菊の花が満開なのである」に澁澤ならではを感じてしまった。 2018/08/24
Mishima
34
25種の花たちのエッセイ。澁澤氏の多彩な観念的知識(芸術家、文学者に纏わるエピソード、花が謳われた作品紹介)、各地で接した花々との思い出。この視点と植物愛好家、八坂安守氏の図鑑の様相を帯びたイラストが融合した欲張りな本。巻末にはイラストの花々の原産地、特色、出典などが知れる情報を記載。梅の件で「的礫」テキレキという言葉をみつけた。「ものがあざかに白く光りかがやくようすをいう」とのこと。なるほど。私は白くて香りの強い花が好き。暮色のなか白い花が的礫と浮き上がり、花独特の香りたつ場所に佇みたい。2015/09/24
、
34
澁澤龍彦さんの花に纏わる25篇のエッセイ集。こんなに薄いのになぜこんなに高いの?と思ったらなんとエッセイの中で取り上げてあるお花の図版がフルカラーで何枚も何枚も収録されていた。カラーならしょうがない。そしてこれがまた、ものすごく美しい。本文中で取り上げられるエニシダ、牡丹に百合薔薇菊などなど、一つ一つの花がそれぞれ文化や時代や芸術、言葉の歴史を持っている事が著者によって紹介されるのを見ると、花という表象は人びとが過去からずっと何かを託して来たんだなあという人類愛に満ちた気持ちになる。叙情と美に溢れた美書。2014/11/30
更紗姫
25
とつおいつ 筆の向くままといった軽い随筆、とても読み易いのに深い。さすが碩学。そして写真でなく図版を配するところが憎いです。どうして写真より挿絵の方が「濃い」気がするのだろう?バック(背景)を排し、対象(=花)を真正面から写し取る図版は、花の盛りを画面いっぱいに披露してくれて勢いがある。もうじき冬が終わり春が来たら、25種類の花を順番に、実際に見て・手に取り・嗅いでみたいと思う。今年のいい目標が出来ました。2017/01/31