内容説明
婆娑羅の風を巻き起こしつつ、聖と賤のはざまに跳梁する「異類異形」、社会と人間の奥底にひそむ力をも最大限に動員しようとする後醍醐の王権、南北朝期=大転換のさなかに噴出する〈異形〉の意味と用を探る。
目次
異形の風景(摺衣と婆娑羅―『標注 洛中洛外屏風 上杉本』によせて;童形・鹿杖・門前―再刊『絵引』によせて;扇の骨の間から見る)
異形の力(蓑笠と柿帷―一揆の衣裳;飛礫覚書;中世の飛礫について)
異形の王権―後醍醐・文観・兼光
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
イプシロン
44
非人、人に非ざる人。佛教、人ならざる人になる教え。非人や仏教僧は何人にも犯されない「聖性」をもつという意味だった。これらの空気を纏った人々を、また異形とも呼んだ。かつて日本には「聖性」の感覚がある程度まで国の隅々にまで行き渡っていた時代があったのだ。政治的支配者でさえ介入できない「聖性」というネットワークが社会の基盤にあったことを窺わせてくれる内容。具体的な「聖性」として「ばさら・かぶき」といった服装やそぶり。鹿杖、柿衣、童(わらわ)、飛礫(ツブテ)、芸能者、蓑笠、白鉢巻、白襷、覆面、扇、遊女など。2020/10/08
tom
30
文章に慣れるまでは、読むことに難儀する。慣れてきたら、意外にスルスルと楽しむ。でも、異類異形、綾羅錦繍の装束、金銀珠玉の風流、道祖神已下辻祭の幣帛、礫、童、京童、悪党、蓬髪などなど見慣れない言葉の連続。これはちょっと辛い、でも仕方ないか。平安時代から鎌倉あたりまで、境界の外にいた人や未成年者は、異類異形の者として、権力に支配されない(神に近い)ものとしてとらえられていた。室町以降、これが「差別」の枠に放り込まれてしまう。歴史学は、こういうことも見ていかなければならない云々、こういうことを書いている。2023/12/24
鯖
23
学生の頃ぶりに読み返した、一冊Gじゃないので注意は必要な網野せんせい不朽の名作。迷作?歴史書というよりは民俗学的に読んだほうが面白いかもしれない。中世の女性の一人旅が多いことに関し「性が解放されている」っていうのはどうかなと当時も思ったんですけども。レイプされかかってるときに相手にせめて人がいないとこでって取引持ちかけるのは性の解放じゃないし、社会的に貞操観念があったかどうかの問題じゃないでしょ。しかし読み物としてはホントに面白い。2021/03/28
デビっちん
22
同じ身なりでも、かつては神の姿としてうやうやしく扱われていたものが、各々のイベントを過渡期として忌み嫌われるものになった。それにヒントを見出して、残された図説から歴史を紐解いていく内容でした。文字から学ぶのが王道だと思っていましたが、図に描かれた隠れたメッセージを見出すのは、時間がかかるし全然違った解釈になってしまうのかもしれないけど面白そうだと感じました。タロットとかは、そういう学び方が良いのだろうな、と。2022/01/20
mataasita
14
異類異形とされた人々たちが、聖なるものから賤なるものに変わっていった過程を大量の文書と絵巻物の絵から読みとるという大作。中世の文書ほぼ全てに目を通したと伝わる網野善彦。歴史学という文字からしか事実判定できない了見の歴史学者には到底辿りつけない地平だろう。民俗学や考古学、文化人類学、言語学など様々な知識、研究成果を結びつけて論を展開するのは圧巻。後醍醐天皇がかなり特殊で異形を権力に活用しようとした革命的な人だったことは分かった。この政治の失敗が差別・被差別を加速させたことも間違いないようだ。2023-972023/08/24