出版社内容情報
豪商の家に生まれながら、下積みの役者として歌舞伎に身を献げた中村秀十郎という人がいた。その生き方に共感した著者の巧みな筆捌き、江戸弁の語りも冴える芸談聞書き「黒衣」等と、克明な伝記「秀十郎夜話」等とが、生涯陰にいた人間に照明を当てる。(解説 : 渡辺 保)
内容説明
歌舞伎の華やかな舞台の陰で細心に立て役の後見を務める秀十郎。「彼が自分の職分である黒衣や、馬の足について、私に話してくれる場合には、いつも生き生きと、誇らしげで、その言葉は確信に満ちている。聞いているうちに、彼もまた名優であるという感じにとらわれる」と著者は述べ、その聞き書をとり、伝記を編む。熱い共感の念を芯に持ってこそ表し得た忘れ難い人間像がここにある。昭和33年度読売文学賞受賞。
目次
第1部 秀十郎の芸談(黒衣;馬の足芸談;とんぼ返りの話)
第2部 秀十郎の生涯(秀十郎夜話;秀十郎拾遺)
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
筋書屋虫六
2
今時の事情は違うだろうけど、戦前の頃までは家の事情等で食うために役者になるという選択肢でその道を目指し、歌舞伎の封建制の中でほとんど役を付けられることもなく下回り役者・黒衣後見として一生を全うする芸人の生き方というものがあり、しかしそこにも役者としての矜恃が息づいているということへの感動があった。また、千谷氏が白日の下にさらした芝居の裏側の、特有の、歪んだ泥沼の世界観というのも、果たして素人が知っていいものなのか?と感じつつも興味深く読んだ。次に芝居を観るときは主演より馬の足に目がいってしまいそうだ。 2011/03/03
クリイロエビチャ
1
一生涯を名題下で終えた役者の芸談と伝記。歌舞伎界の裏側、それもより混沌としていただろう戦前の様子を窺えるのが楽しい。現幸四郎と吉右衛門の確執が1行さらっと描かれていた。ここ数年で修復したけど、なぜ兄弟の仲がこじれていたのか知らなかったので、原因の一端を知って「なるほど」とふに落ちた。2010/06/20
みつひめ
1
役者の芸談というと、大看板のものがほとんどだった中で、出版当時のみならず、今でも貴重な黒衣後見の名人の芸談。馬の脚がどんなふうになされているのか、なんていうのは、他では読んだ事も聞いた事もなかったので、そうなっているのか!と。他にもいろいろと興味深い話があれこれ。2009/12/27