出版社内容情報
イタリアで暮らした遠い日々を追想し、人、町、文学とのふれあいと、言葉にならぬため息をつづる追憶のエッセイ。講談社エッセイ賞、女流文学賞受賞。【本文より】ミラノに霧の日は少なくなったというけれど、記憶の中のミラノには、いまもあの霧が静かに流れている。
内容説明
記憶の中のミラノには、いまもあの霧が静かに流れている―。ミラノをはじめ、各地で出会った多くの人々を通して、イタリアで暮した遠い日々を追想し、人、町、文学とのふれあいと、言葉にならぬため息をつづる追憶のエッセイ。講談社エッセイ賞、女流文学賞受賞。
目次
遠い霧の匂い
チェデルナのミラノ、私のミラノ
プロシュッティ先生のパスコリ
「ナポリを見て死ね」
セルジョ・モランドの友人たち
ガッティの背中
さくらんぼと運河とブリアンツァ
マリア・ボットーニの長い旅
きらめく海のトリエステ
鉄道員の家
舞台のうえのヴェネツィア
アントニオの大聖堂
1 ~ 2件/全2件
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
アン
94
「いまは霧の向うの世界に行ってしまった友人たち」へ捧げた追憶のエッセイ。須賀さんが20代の終りからイタリアで過ごした13年間の忘れ難い大切な軌跡。最愛のイタリア人の夫が亡くなり、長い時間を経て書かれたこの作品には、出会った人々と文学への誠実な思いと愛情がこめられ、巻末のサバの詩が美しく心に響きます。ナポリの下町風情、トリエステの碧い海、ヴェネツィアの水面に燦めく光…。須賀さんの豊かな感性によって綴られる風景は水彩画のように瑞々しく、その中で生きる人々の息遣いまで聞こえてきそうです。 2019/07/21
アキ
74
霧の風景はミラノの風物詩である。若い頃のイタリアで過ごした13年間を60歳になって振り返ると、ある場面だけが特別に印象に残っていて、現実だったのか幻だったのか、本で読んだ印象だったのか、霧の中に見える影のようにぼんやりとしたまま。多くの知人は、今は消息もわからず、あるいはこの世になく、街と人の記憶を辿るが、ミラノやトスカーナやルッカの街の風景は何も変わらず佇んでいる。そして、この本に今は亡き著者の思い出だけが残される。不安だらけで濃密で満ち足りて情熱に溢れていた彼女の青春の残り火だけが。2020/01/14
aika
61
ミラノに立ちこめる霧は、須賀さんの心の中をまとう霧でもあるのかな、と感じました。特に噛みしめるようにして言葉をなぞった場面は、コルシア書店の仲間だったガッティが変貌して皆に煙たがられ、老いていった最期の姿であり、そんな彼に目をそむけたくなった須賀さんの素直な心情や、夫ペッピーノを喪った言うに言われぬ悲しみの行き場です。描かれる人々は皆、本質的には孤独に思えます。しかしイタリアに息づく詩や文学を、そして須賀さんの眼差しから描かれた、霧の向こうに行ってしまった彼らの生には、たしかに感じる温もりがありました。2019/05/04
ヴェネツィア
61
その季節にミラノに行ったことはないのだが、霧の冷たい温度感や空気の感覚がよく伝わってくる。また、筆者がそこで出会い交流する人達もまた、きわめて強い存在感を持っている。どこまでも静かで、味わいの深いエッセイ。2012/03/10
naoっぴ
57
著者がイタリアで過ごした日々の追憶のエッセイ。そこで出会った人や街のこと、何気ない小さなエピソードまでを丁寧に綴っていく。美しく上品な文章、静かに語りかけてくるような文体が心地よい。イタリアというと情熱的であっけらかん(そしてちょっといいかげん(笑))というイメージがあったが、ここで語られるイタリアは歴史情緒豊かな美しい土地として描かれている。景色のいい場所でひとりゆったりと読みたい味わいのあるエッセイ。2015/10/09