内容説明
『断食芸人』はカフカの死の直後に刊行された。校正刷りが届いたとき、カフカは喉頭結核のため絶食を強いられていた。食べられない人が、食べない男の物語の校正をせっせとこなす。なんという悲劇、なんという喜劇!表題作のほか、『田舎医者』「新聞・雑誌に発表のもの」を収録。
著者等紹介
カフカ,フランツ[カフカ,フランツ][Kafka,Franz]
1883‐1924。チェコのプラハに生まれる(当時はオーストリア=ハンガリー帝国領)。プラハ大学で法学を専攻。在学中に小説の習作を始める。卒業後は労働者傷害保険協会に勤めながら執筆にはげむ。若くして結核にかかり、41歳で死去
池内紀[イケウチオサム]
1940年、兵庫県姫路市生まれ。ドイツ文学者、エッセイスト(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
のっち♬
91
『田舎医者』からいかにも著者らしい夢幻的な世界観。傷口の描写に異様な生々しさがあり、性と死のイメージを強調している。『ある学会報告』では「自由」は「幻想」であるとし「出口」という表現を用いる点に著者の思念を感じた。『断食芸人』は、作家と読者の関係性を芸人と観客に重ねたような言い回しが印象的で、世間の無理解に悩む著者の葛藤が投影されているかのようだ。食べない人生、何もしない芸など、様々な逆説的要素を重層的に盛り込んだ傑作。どの作品も非常に短いが、様々な解釈を生み出せる芸術的可能性と独特の呪縛力に富んでいる。2021/02/10
にゃおんある
37
その昔、断食をして讃えられた良き日を胸に、それは次第に飽きられてしまうなか、さらに再び脚光を浴びようと足掻くのです。流行り廃りの激しい世の中、人々は新しい変化をリクエストする、それに応えようとする哀しい芸人、プライドの葛藤が孤高へと使嗾させていく。とかく芸人はその宿命を持っている。偶然、読み友の感想の中に風船おじさんのことが書かれてありました。長く人の記憶から忘れ去られたあの人をこうして思い出してみると、彼にもまた哀しい影が宿っています。われわれは、一つの諧謔に過ぎません、好まれる好まれないにかかわらず。2018/09/06
弟子迷人
30
カフカ全集ホルダーであるので、この作品自体は何度か読んでいるのだが、 APOMさん(http://bookmeter.com/u/261490)の感想の、 >ボラーニョの『鼻持ちならないガウチョ』の「鼠警察」が、「歌姫ヨゼフィーネ~」のオマージュ作ということで読んでみた。カリスマに群がる集団の心理や言動ってこんな感じだよなぁ。『断食芸人』の四篇が特に面白かった。 のご感想の、ボラーニョの件は知らなかった。(というかボラーニョ何となく未読><)2014/10/27
こうすけ
26
カフカ短編集。主に、生前発表されたわずかな作品をまとめたもの。『流刑地にて』に比べるとやや打率が低かった。やっぱり、当時は発表されずに、夜な夜なこっそり書かれた作品が面白い。2022/06/15
ぞしま
17
どれも読みごたえがあって、素晴らしい。「夢」はすごくキャッチーかな。 「天井桟敷」は何回か読んでみて分かるような気もするがやはりつかみがたい。よく分からないカフカの長尺な語りが私はすごく好きなのだが、短編だとあまり登場しない印象を持っている。だけど「歌姫ヨゼフィーネ」で語られる語られる〈勇気〉にそれを感じた。書かれているものの不穏さと語り自体の持つ不穏さが混在するとき恍惚に近い感慨を覚える。あとは「断食芸人」。あとがきを読むと死の間際の推敲している姿と最後のセリフがつながりを帯びてきて、胸を打たれる。2018/12/30