内容説明
ある冬の夜ふけ、Kが村にやってくる。測量士として城から雇われたのだ。しかし、城からの呼び出しはない。城はかなたにくっきりと見えているのに、どうしてもたどりつくことができない。この城という謎の存在をまえにして、一見喜劇的ともいえるKの奇妙な日常がはじまる。
著者等紹介
カフカ,フランツ[カフカ,フランツ][Kafka,Franz]
1883‐1924。チェコのプラハに生まれる(当時はオーストリア=ハンガリー帝国領)。両親ともドイツ系ユダヤ人。プラハ大学で法学を専攻。在学中に小説の習作を始める。卒業後は労働者傷害保険協会に勤めながら執筆にはげむ。若くして結核にかかり、41歳で死去。『変身』などわずかな作品をのぞき、そのほとんどは発表されることなくノートに残された。死後、友人マックス・ブロートの手により世に出され、ジョイス、プルーストとならび現代世界文学の最も重要な作家となっている
池内紀[イケウチオサム]
1940年、兵庫県姫路市生まれ。ドイツ文学者、エッセイスト(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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テイネハイランド
21
「最初に読んだ彼の作品は『城』でした。そこに描かれているものごとはきわめてリアルでありながら、同時にきわめてアンリアルであり、読みながら僕の心が二つに引き裂かれたような気がしたものです。」と村上春樹氏が語った作品。今回一読するだけではその全体像がつかみきれませんでしたが、滑稽な場面もとても多いので長い作品にも関わらずするすると読めました。主人公がやたら女にもてる設定というのもなんとなく「村上春樹の世界」に近いかなとちょっと思ったりもしました(G1000)。2017/09/09
syota
19
“城”とそこにいる役人たちは、近未来SFに出てくる架空世界の統治機構を思わせる。異分子としてこの世界に登場した測量士のKは、お役所仕事の手違いで招聘されたらしく、測量の仕事などないと村長に言われてしまう。やむなく学校の小使に甘んじながら、自分に本来与えられるべき場所を求めて城の統治機構へ必死に働きかけるが、次第に泥沼に。非効率・無責任なお役所仕事や、権威に盲従する村人への批判は強く感じたが、本質的には己の存在価値を否定された人間の戦いがテーマだと思う。未完成なのが残念。[ガーディアン必読1000冊]2015/08/10
ぞしま
18
不条理の源泉が巨大な官僚機構のようなものである所は『審判』に近しい。ただ、ヨーゼフ・K(審判)が最後まで反抗を貫き結局は絡め取られてしまったのに対し、この測量士のKは、同様に絡め取られながらも村と生きようとする(婚約したり)きらいがある。そこは大きな違いと思えた。夢と酔いが混ざったような不気味な夢遊感覚に卑小過ぎる俗な現実が同時進行していく世界がほんとうに…すごい、すごすぎるくらい。そして(優れた小説が須くそうであるように)、人間を真摯に描くことによって、『城』は読者を等しく善悪から置いていく、すごい。2017/01/15
荒野の狼
17
通読は容易で2週間あれば十分。カミュは“シーシュポスの神話”の中で、“城”では‘日常的なものへの服従が倫理となっている’世界を描いており、‘人間が不条理に忍従する、と、その瞬間から、不条理はもはや不条理ではない’と書いている。“城”は未完に終わっているが、最後の数ページでこの小説の世界は描ききられており、未完という印象は受けない。カミュも‘この作家がかりに最後の数章を書いたとしても、そこで小説全体の統一性が破れるようになるなどとは、とても信じられない’と書いている。2007/09/26
K・M
15
カフカ作品では最も長い長編小説。ある冬の日、城の所領の村に測量士Kが辿り着く‥が、物語全体があまりにも不可思議。とにかく奇妙な内容であり読み進める事は困難を極める。明らかに推敲されておらず生前カフカも世に出すつもりはなかった原稿だと容易に推察できる。なにしろ2人で会話している場面ではどちらが話しているのか理解するのも苦慮するほどだ。城に辿り着けない決定的な理由も分からずKは果てしなく一人遊びを続ける。実存主義とは一体なんなのか。奇妙な内容でありながらも重厚な輝きを放ちつつ桁外れの存在感を示す希少な一冊。2021/04/01