出版社内容情報
まえがき
プラス思考で前に進もう
二十一世紀のいま、特許に関心がない技術者は、企業では生き残れない。
わが国の産業界は、戦後、焼け野原に建てたトタン屋根の工場からスタートした。そして、国が政策で産業の復興を支援し、企業戦士が日々の努力を積み重ねて、産業界は大量生産と品質管理を身につけた。いまや、わが国は全世界に良質な商品や優れたサービスを提供する重要な供給拠点としての役割を担うまでになった。世界経済の動きを左右する大きな存在になっているのである。
しかし、足元を見れば、世界に情報の網を張る筈の超一流メーカーが、携帯電話の在庫ダブツキとかパソコンの需要減退などの理由で、いとも簡単に、いとも無責任に、長期不況に巻き込まれていく。さらに、目を外に転じると、モノづくりを学んだ近隣諸国からは、低労賃でありながら品質・性能に優れた商品が熾烈な攻勢をかけてくる。とりわけ、中国は数億の民を需要と供給の両面の後背地として抱え、最近の成長ぶりは目覚しいものがある。日本は中国よりも一歩先の技術に挑戦し続けなければならないのに、廉価な海外の労働力とリストラに目がくらみ、大事な研究開発投資を怠った。その怠慢のツケがわが国の根底を揺るがしている。
よし、そうならばプラス思考に考えて、これからの道を探ってみよう。
そうすると、我が国の企業技術者が生き残る道は、高付加価値なアウトプットを生み出すことだとわかる。つまり、特許で保護するのに値する商品やサービスを創り出すことだ。モノの付加価値を重視する社会から、チエの付加価値を重視する社会への変革である。ハードエンジニアリングを駆使した《物の価値づけ》の大小を問う社会から、ソフトテクノロジーを駆使した《知恵の価値づけ》を問う社会へと、意識の改革が求められているのである。
だから、二十一世紀のいま、特許に関心がない技術者は、企業では生き残れない。
このような潮流が基本的な背景になっているので、本書では、レオナルド・ダ・ビンチのような天才発明家の発明には関心をもたない。そうではなくて、事業戦略の中に組み込んで企業が生み出す組織的な特許活動を取上げる。
企業の技術部門では、第一線の技術者が知恵を絞り、その成果として発明を生み出す。特許部門では、このような発明を受け止め、そこから技術者の《技術的思想》をくみ取り、新たな価値を盛り込んで特許出願をする。こうして、資産として経済価値のある特許権(知的財産権)を取得する。特許部門は、そのための専門家集団である。しかし、このようなスキームにすら気がつくゆとりがなく、技術者は、場当たり的にスポット発明を生み、特許部門はその都度、その対応に追われるという悪循環に陥っている。
この悪循環を断ち切って、企業の中長期計画と同じように戦略の中で自社の特許資源の確保を計画しよう。そして、設備投資と同じように戦略的に特許網を育てよう。長期的展望の中で企業資源としてあるべき特許網を構築するのである。
発明は、技術者の頭脳が創造する知的成果であるが、新しい時代の企業戦略の中では、組織的活動の成果として捉えるべきだ。そこでは、技術者は、好き嫌いや独善、偏見から離れて、実際の研究開発に着手する前に彼我の戦力を客観的に比較する。そして、そこから得たチエを主観的創造につなげて最大限のパテント陣地を構築する。
特許は、ひと昔前のように出願に馴れた一部の技術者や、特許部門、弁理士のものではなくなった。企業活動と切り離せない中長期戦略の一翼をになうので、重要な存在なのである。
そこでは、戦略的パテントの心得が、技術者の身につけておくべき常識なのである。
二十一世紀はそんな時代である。モノづくりは、いつでも技術者の大切な糧である。そして、モノづくりとチエづくりのバランスは、高付加価値を探るメーカーにとっても、生き残りの大事なカードになっている。チエこそが、新たな高付加価値と市場を生み出すのである。
特許情報には、新たなチエを生み出す上で役立つ創造へのヒントがたくさん埋まっている。この先人の汗と努力が築き上げた技術的資産を知的刺激情報として活用しよう。一歩先の創造のために新しいジャンル、ソフトテクノロジーを構築することは、二十一世紀を担う技術者の努めではないだろうか。
本書は第1章で、特許部門がいま抱えている問題を例示してみる。これからの高付加価値への糸口を述べるためである。第2章では、戦略的パテントを生み出す共通プロセスとしてのツールを説明する。第3章では、ツールを使って生み出す創造的な思考のステップについて説明する。第4章では、一歩先の企業が理解しておくべき創造開発機能やパテントウォールについて説明する。第5章では、日米のチエの活かし方の相違を、特許クレームから比較してみる。
本書は、日刊工業新聞社が発行する月刊誌「電子技術」の一九九七年から二〇〇一年の各号に連載した内容をもとに、全体を組み直して手を加えた。五年の間、毎月、徹夜同然の原稿書きを支援してくれた家族には心から感謝している。
筆者らが十数年前に創業した ネオテクノロジーは、特許情報を用いてクライアントの実際の研究開発を支援している。考え出したツールには実践の場が不可欠であり、本書に取りあげる数例のツールもクライアントの御協力があってこそ育ったものと言える。本書自体、当社の取締役西島隆と山田キミの忠言が誕生のキッカケだった。そして、ここに至るまでに櫻井能充をはじめとする多くの仲間にお世話になっている。
当社では、企業の規模を最大十二名と枠決めしており、『断じて規模を追わない』を経営の基本に定めている。それなりに、実際のビジネス・アドミニストレーションには苦心しているはずであり、その面でBAマネージャ千葉春香の活躍が大きな支えになっている。
しかし、本書の完成には、何よりも日々の精神的な支えを得られたことが大きい。とりわけ筆者の意を完璧に理解し、アシスタンス・オブ・クリエーティブ・シンキング(ACT)推進室を自ら運営する橋本小百合には、生き方に共感して志を同じにする同志として、強い信頼と尊敬の念を感じている。
二〇〇一年八月 中島 隆
目 次
第1章 特許情報から高付加価値を生み出す糸口としての4ヶ条
│いま、特許部門は問題だらけ│
1・1 特許部門は戦略的部門か ……4
1 最初に戦略的ビジョンがある 4
1・2 人の問題 ……6
2 技術者も変わらなければならない ……7
1・3 技術の問題 …8
3 モノづくりとチエづくりで高付加価値を狙え ……9
1・4 経済の問題 …10
4 特許経済という道を探れ ………11
1・5 パテントウォールへの道 ……13
第2章 戦略的発想ツールを使いこなす26ヶ条
│具体的な出願強化手法の紹介│
2・1 技術者による技術者のための特許情報 18
1 創造のヒントは公開特許に秘められている ………19
2 内容は明細書の本文で見よう 23
3 創造のヒントは登録特許にも秘められている ……26
4 【特許請求の範囲】から発明概念の抽象化のヒントを得る ……29
5 発明を生み出す二つの背景 ……31
6 発明の課題と目的を整理する。そして幸運の女神を呼び寄せる ……35
7 とにかく量を見る。それが最初のスタート ………39
8 公報明細書を楽しく読む ………41
9 どんな発明からでも、あなただけのアイデアが生まれる ……43
2・2 特許情報から発想のヒントをつかむ│発想シート作成の4ステップ│ ……49
10 発想シートのすすめ ……49
11 発想シートで発想を広げる ……51
12 発想シートで設計のヒントを集める ……52
13 最近の特許情報から集めた放熱技術の発想シート 53
14 発想シートは問題に直面したときに開く扉 ………57
15 発想シートの活用 ……59
16 発想シートはパソコンの表データに集める ………61
17 問題解決の事例マニュアルを発想シートから創る 63
18 発想シートは間違っていてもよい ……64
2・3 特許情報でロジック(論理)を見直す│課題系統図作成の4ステップ│ ……66
19 課題系統図に論理を展開 ………66
20 論理フローを解き明かす ………69
21 論理フローから発想を転換 ……70
22 何回も出てくる課題がホンモノだ ……72
2・4 特許情報でパテントの統治力を見直す│工程基準表作成の4ステップ│ ……74
23 基準表を使って自分の観点フラグを立てる ……74
24 工程基準表で重要ポイントを確認する …76
25 工程基準表は生産技術の出願を強化する 78
26 戦略的生産技術には特許マップを作れ …80
第3章 戦略的発想ツールを使う。発明を生み、強く育てる16ヶ条
│企業人の技術活動│
3・1 発明を生み、育てる。そして、次のテーマを暖める ……85
1 出願から開発へ、特許で守った後でマーケティングに ………85
2 R&Dテーマ探りに特許情報を使う ……86
3 着想段階の発明をレベルアップして出願する ……89
4 タネを育てて技術することを楽しもう …93
5 模造紙は思ったよりも役に立つ ………96
3・2 クリエーティブシンキングへの道 ……98
6 技術者の創造活動にパテントコーディネータを …99
7 パテントコーディネータに必要なこと …101
8 コーディネータの支援活動は特許情報の提供から 102
9 タフな発明に育てるためのグループワーキング …106
10 創造のカギは仲間の輪を広げる ………107
3・3 特許マップも変えてみよう 109
11 目的のために「何でもアリ」が特許マップだ ……109
12 「量」で見るか「内容」で見るか ………110
13 内容に踏み込んだ特許マップ 114
14 特許マップはおもしろい ………117
15 特許マップの効用 ……119
16 ロングレンジマップとショートレンジマップ ……119
第4章 パテントウォールを築く戦略的出願9ヶ条
│マーケティングの前、最初に出願がある│
4・1 戦略的とは何か? …122
1 特許情報を前向きのテーマ選定に利用する ………122
2 特許情報+マーケット情報+技術情報=戦略的情報 125
4・2 知的なアンテナを伸ばす ……126
3 特許情報とロードマップ ………127
4 中央研究所の時代は終わった 130
5 新しい知的情報活動を始めよう ………132
4・3 発想を柔軟に転換せよ ………134
6 OB技術者の活用 ……134
7 特許情報を楽しむために ………136
8 米国企業に特許の強さを学ぶ 137
9 米国特許に学ぶ 142
第5章 日米のクレーム対比具体例
5・1 特許出願はチエの生産活動 146
5・2 チエづくりへの投げかけ ……147
5・3 チエに付加価値を盛り込む 150
内容説明
本書では、レオナルド・ダ・ビンチのような天才発明家の発明ではなくて、事業戦略の中に組み込んで企業が生み出す組織的な特許活動を取上げ、企業の特許部門が抱える問題と、その対応策を述べた。
目次
第1章 特許情報から高付加価値を生み出す糸口としての4ヶ条―いま、特許部門は問題だらけ
第2章 戦略的発想ツールを使いこなす26ヶ条―具体的な出願強化手法の紹介
第3章 戦略的発想ツールを使う。発明を生み、強く育てる16ヶ条―企業人の技術活動
第4章 パテントウォールを築く戦略的出願9ヶ条―マーケティングの前、最初に出願がある
第5章 日米のクレーム対比具体例
著者等紹介
中島隆[ナカジマタカシ]
1943年東京都に生まれる。1968年上智大学大学院修士課程電子工学修了。同年TDK(株)入社。1971年通産省工業技術院電子技術総合研究所出向。1977年TDK(株)駐米テクニカルリエゾン。1979年同応用製品研究部研究リーダー。1984年円満退職し、特許事務研修。1986年中島技術事務所開設(技術士)。1991年(株)ネオテクノロジー創設。現在、(株)ネオテクノロジー代表取締役社長、技術士(電気・電子No.18607)
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。