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数理科学セミナー
ウェーヴレットと直交関数系

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  • サイズ A5判/ページ数 307p/高さ 22cm
  • 商品コード 9784501618704
  • NDC分類 413
  • Cコード C3041

出版社内容情報

序 文

 ウェーヴレットの研究はこの5,6年の間に急速な発展を遂げた.あまりに急速であったため,多くの論文や書籍がすでに古くなってしまった.しかし,いまやその頂点に達したウェーヴレットの1 分野がある.それは直交ウェーヴレットである.主要な概念はすでに標準的なものとなり,これ以降の発展はおそらく補足的なものになるであろう.ある意味では,直交ウェーヴレットはほかの直交関数系となんら異なるものではない.それらは,関数を直交関数の級数として表現することを可能にするものである.しかし注目すべき違いがある.ウェーヴレット級数はほかの級数と異なって各点収束し,より局所的でエッジの効果を効率的に探り出すことができ,ある種の信号や画像をより少ない個数の係数によって表すことができる.
 残念ながら,すべてがバラ色ではない.ウェーヴレット級数展開は任意の平行移動で大きく変化する.これはFourier級数より悪い.合成積や微分など,ほかの演算についても同様のことがいえる.
 本書では,ウェーヴレットは,Fourier級数や直交多項式系など,ほかの直交関数系と同じように扱われる.したがって,その長所も短所もより直接的に見えることになる.
 本書のレベルは,工学および数学の大学院生が読めるように設定されている.大学院初学年程度の実解析と複素解析の知識を仮定している.しかし,後の方の章はもっと技術的で,より高度の予備知識を必要とする.全般的にLebesgue積分が使われる.これは積分を計算するには実際上何の影響もないが,多くの理論的な利点を与えるものである.
 ウェーヴレットは直交関数系というテーマにおいて,応用における有用性に基づく最新の成果である.実際,直交関数系は発案当初から応用に付随していた.Fourierは3角関数によるFourier級数を,熱伝導や波動方程式などの偏微分方程式を解くために考案した.直交多項式を含むそのほかの直交関数系は19世紀に現れた.これらも偏微分方程式の問題と強く関わっている.Legendre多項式はLaplaceの方程式の球内における解を見いだすのに使われたし,Hermite多項式やLaguerre多項式はSchr¨odingerの波動方程式の特別な場合の解を見いだすのに使われた.Bessel関数もそうだが,これらはSturm-Liouville問題の特別な場合である.Sturm-Liouville問題は,さまざまな偏微分方程式を解くために使われるいろいろな直交関数級数を導く.
 2世紀初頭のLebesgue積分の発見は直交関数系の一般論の発展を可能にした.応用を念頭においてはいなかったが,それはHaar系やWalsh系などの新しい直交関数系を導入することを可能にし,結局これらは信号処理において有用であることが知られるようになった.同じ分野で有用なものとしてsinc関数とその平行移動があるが,これらはPaley-Wiener空間の直交基底をなす.これらは,ある積分方程式やSturm-Liouville問題の解を表す扁長楕円体球関数(prolate spheroidal function)と関連している.
 Haar関数系やsinc関数系の一般化である直交ウェーヴレット関数系は,多くの特徴的な性質を持っている.そのため,直交ウェーヴレット関数系は,データ圧縮,画像解析,信号処理,数値解析,音響解析などにおいて有用となる.その分解と再構成のアルゴリズムによって,データの離散化において特に有用となる.また,直交ウェーヴレット関数系は,古典的な直交関数系よりも優れた収束性をもっている.
 Lebesgue積分は直交関数系の一般的な理論を可能にしたが,多くの応用を扱うほどには一般的でない.特に,デルタ“関数”すなわちインパルス関数は信号処理で中心的な役割を果たすが,2 乗可積分関数ではない.幸い,このようなものを扱う理論が20世紀中頃に現れた.これは主にL.Schwartzによる“超関数”の理論である.超関数は,それを直交関数系で表すことができ,また関数を直交超関数で表すことができるということによって,直交関数系と結びついている.
 本書は13章から成っている.初めの7章は解説的で一般的であるが,残りの章はより専門的でほかの分野での応用を含んでいる.それぞれの章は直交関数級数の応用,または性質に関連している.
 第1章ではウェーヴレットの2 つのプロトタイプとなる直交関数系を提示する.これらは,Haar関数系とShannon関数系で,すべてではないが,直交ウェーヴレット系の多くの性質を持っている.それに続いて,直交関数系の一般論が述べられる.これは標準的な理論であるが,結果の一部は個々の例のすべてに活用される.
 第2章は緩増加超関数への短い導入である.これは比較的簡単な理論で,直交関数級数の多くに必要な一般化関数はこれだけである.多くのエンジニアはまだ“デルタ関数”を躊躇して使っているように見受けられる.しかしこれは正しい数学的な定義を与えられたものであって,躊躇する必要はない.この章では,これに付随するFourier変換の理論も与えられ,これを使って多項式や3角関数などのFourier変換をとることが可能になる.
 第3章は直交ウェーヴレットの一般論入門である.直交ウェーヴレットを構成するいくつかの方法と,直交ウェーヴレットの性質を解説する.多重解像度解析は級数の項が解像度ごとにグループ化されることを表す.ある解像度における係数を別の解像度の係数から与えるMallatの分解および再構成アルゴリズムもここで提示される.これらの性質のいくつかは,第5章で緩増加超関数に拡張される.第4章でわれわれは3角関数のFourier級数に立ち戻り,各点収束や総和法などより詳しい性質を考える.これらはよく知られた結果であり,さらに突っ込んだ詳細はZygmundの文献で述べられている.超関数のFourier級数展開についても簡単に触れる.
 第6章ではもう1 つの大きなクラスの例である,直交多項式を扱う.古典的な例の定義を与え,それらの性質を調べる.Hermite多項式は自然な形で緩増加超関数に関係するが,この関係が持つ性質も議論する.そのほかの直交関数級数は第7章で議論される.
 直交関数級数のさまざまな収束性は第8章で議論される.特に,ウェーヴレット級数の各点収束をほかの直交関数系による級数と比較する.また,Sobolev空間における収束速度を決定する.ウェーヴレット級数のGibbsの現象を,ほかの級数の場合と比較する.
 第9章は標本化定理を扱う.これは3角関数系や多項式系など多くの直交関数系において現れる.しかし,古典的なShannonの標本化定理はShannonウェーヴレットのウェーヴレット部分空間を扱う.これをほかのウェーヴレット部分空間に拡張することができる.等間隔,および非等間隔な標本化点の両方の場合を考える.
 第10章では,平行移動作用素と直交関数系との関係を考える.ウェーヴレット級数は,ある例を除いては,この作用素に関してよい振る舞いを示さない.
 第11章はFourier級数およびウェーヴレット級数の両方に基づく正則関数表示を扱う.これらは,実軸上で与えられた値を持ち,半平面上で定義される調和関数を求める境界値問題を解くのに用いられる.
 第12章では,さまざまな直交関数系による確率密度関数の推定値を考える.Fourier級数とHermite級数の両方が使われてきたが,ウェーヴレット級数が最適であることになる.
 最後の章では,確率過程を直交関数系で表すために,Karhunen-Lo`eve理論を考える.ウェーヴレットに基づく別の定式化が行われる.
 本書の内容のいくつかは,数学系と工学系の学生の両方が混じった大学院の講義で使われた.直接教科書として書かれてはいないが,特殊関数や信号処理の数学の現代的な講義の基礎となり得るものである.各章の最後に演習問題がある.そのほとんどは,本文の内容を理解するのに役立つように考慮されている.

謝辞

 本書を書くに当たってたくさんの方々にお世話になったが,とくに次の2 人には感謝したい.Joyce Miezinは効率的にタイプして,私の手書きの原稿を正しい数学記号に翻訳してくれた.Bruce O’Neillは原稿の数学的なミスプリントを指摘してくれた.

G G.ウォルター

日本語版への序文

 本書の英語版が発行されてから数年の間に,ウェーヴレットは空前の発展を遂げた.その発展の多くはウェーヴレットの多重解像度から生じる新しい応用に関連していた.本書の主要なテーマである直交関数系としてのウェーヴレットに関しては,それ以降の進展はそれほど急激ではなかった.直交関数系としてのウェーヴレットは古典的な応用数学の標準的なものとなったし,その位置づけは今後も変わらず,何年も読者の興味の対象であり続けることであろう.
 この新しい日本語版では,英語版にあったミスプリントや誤りが訂正されている.本書を注意深く読んで,原著者が気付かなかった誤りを発見してくれたことについて,私は本書の翻訳者,榊原進,萬代武史,芦野隆一の各氏に感謝の意を表したい.その結果が,元の英語版よりも全体的に改良されたものになっているこの日本語版である.

G. G.ウォルター

訳者序文

 ウェーヴレットは1980年代後半に急速に発展し,いまやフーリエ解析とならんで信号処理や応用数学において必要不可欠のテーマとなった.応用範囲は極めて広く,また問題によっては顕著な効果をもたらすが,フーリエ解析とは少し異なる数学的内容を含んでいる.信号を解像度の異なる部分に分離する多重解像度解析と,ウェーヴレットの局所性と正則性に基づく分解能が代表的な特徴である.
 1990年代になってウェーヴレットの教科書や入門書が相次いで現れ,和書は少ないものの,現在ではゆうに100冊を超える数の洋書が発行されている.しかし,そのほとんどは信号処理の観点から書かれており,多重解像度解析に関するアルゴリズムに関連した話題が中心となっている.一方,それぞれの解像度における信号の分解能は,ウェーヴレットが信号の空間の正規直交系をなすことと結びついている.直交関数系は応用数学でよく知られた概念であるが,ウェーヴレットは局所性をもちかつ適当な正則性をもった正規直交系として,極めてユニークなニューフェイスである.信号の分解能について理解するには,ウェーヴレットのこの性質,すなわち直交関数系としての側面を知らなければならない.
 本書は,ウェーヴレットを主に直交関数系という側面から捉えた,ユニークな本である.何と言っても本書の一番の魅力は,直交関数系という数学的な内容を応用に関連させて提示していることである.デルタ関数はインパルス関数としてエンジニアが日常的に使うものであるが,これをFourier変換の枠組みで捉えようとすると超関数の概念が必要となる.しかし,超関数は数学的すぎて,エンジニアにとっては近寄りがたい.そこで,本書では,超関数に関する知識は最小限に抑えて,効率よくまとめてある.実は,ウェーヴレットもそれに関連して出てくるスケーリング関数も,一般には超関数になるので,超関数を使うと全体の議論がたいへん見通しよくなるのである.そして,Fourier変換の理論もそれに合わせて重要なポイントがまとめられている.
 直交関数系はよく知られた概念であるといっても,応用を志す読者にとって適切な参考書はほとんどない.本書では,ウェーヴレットの応用における役割を理解するに必要最小限な直交関数系の予備知識が2つの章にまとめられている.これも本書の特徴である.
 後半では,標本化定理や統計学,確率過程への応用が述べられているが,これらは原著者自身の成果を含む部分でもあり,前半の数学的な基盤が応用においてどのような結果をもたらすかを示す例でもある.多くの類書が扱っている信号処理の応用とは重複しない,本書の特徴的なテーマの選択である.
 このように,本書は数学的な基礎知識を,必要な事項は省略することなく効率よく提示しながら,一方では広範な応用を扱っていて,しかも全体としてコンパクトにまとめられている.そのため,数学的な厳密性がやや犠牲になっている部分も見受けられる.数学の教科書という視点で読むよりは,直交関数系としてのウェーヴレットを概観するものとして読み,厳密性を要する部分はそれぞれの専門書を参照するのがよい.厳密性を追求すれば分厚い本になってしまい,全体像がぼやけて本書の魅力が失われてしまうであろう.しかし,必要に応じて訳者注を添え,本文の説明を補うようにした.原著者と連絡をとり,ミスプリントもできるだけ訂正した.また,国内の読者の便宜のために,日本語の文献リストも付け加えた.
 本書が我が国におけるウェーヴレット研究および応用の一助となれば,翻訳者として幸いである.なお,今後発見される本書のミスプリントの訂正などは,下記のURLでメンテナンスし,公開されているので参照されたい.
Http://www.osakac.ac.jp/labs/mandai/walter/
http://www.osaka-kyoiku.ac.jp/‾ashino/walter/

榊原 進
萬代武史
芦野隆一

目次
序文
日本語版への序文
訳者序文
第1章 直交関数の級数11
1.1 一般論
 1.2 直交関数系の例
 1.3 演習問題
第2章 緩増加超関数入門
2.1 緩増加超関数
 2.2 Fourier変換
 2.3 周期超関数
 2.4 正則関数による表現
 2.5 Sobolev空間
 2.6 演習問題
第3章 直交ウェーヴレット入門
3.1 多重解像度解析
 3.2 マザーウェーヴレット
 3.3 再生核とモーメント条件
 3.4 ウェーヴレットの滑らかさとモーメント条件
 3.5 Mallatの分解・再構成アルゴリズム
 3.6 フィルタ
 3.7 演習問題
第4章 Fourier級数の収束と総和法
4.1 各点収束
 4.2 総和法
 4.3 Gibbs の現象
 4.4 周期超関数
 4.5 演習問題
第5章 ウェーヴレットと緩増加超関数
5.1 緩増加超関数の多重解像度解析
 5.2 超関数に基づくウェーヴレット
 5.3 点に台を持つ超関数
 5.4 演習問題
第6章 直交多項式
6.1 一般論
 6.2 古典的直交多項式
 6.3 演習問題
第7章 そのほかの直交関数系
7.1 有限区間上の自己共役固有値問題
 7.2 Hilbert-Schmidt型積分作用素
 7.3 特異例―扁長楕円体球関数
 7.4 幸運な偶然?
 7.5 Rademacher関数
 7.6 Walsh関数
 7.7 周期的ウェーヴレット
 7.8 局所サイン基底と局所コサイン基底
 7.9 双直交ウェーヴレット
 7.10 演習問題
第8章 ウェーヴレット展開の各点収束
8.1 準正値デルタ列
 8.2 超関数の展開の局所的収束
 8.3 ほとんどいたるところの収束
 8.4 デルタ列の収束速度
 8.5 ウェーヴレット展開の他の部分和
 8.6 Gibbs の現象
 8.7 演習問題
第9章 Shannonの標本化定理
9.1 Vm のRiesz 基底
 9.2 Vm の標本化級数
 9.3 標本化定理の例
 9.4 Tm の標本化級数
 9.5 ずらし標本化
 9.6 スケーリング関数による過剰標本化
 9.7 カーディナルスケーリング関数
 9.8 演習問題
第10章 平行移動不変性と伸張不変性
10.1 3角関数系
 10.2 直交多項式 
 10.3 すべてがうまくいく例
 10.4 すべてがうまくいかない例
 10.5 弱い平行移動不変性
 10.6 伸張とその他の作用
 10.7 演習問題
第11章 直交級数による正則関数表示
11.1 3角級数
 11.2 Hermite級数
 11.3 Legendre多項式級数
 11.4 正則ウェーヴレットと調和ウェーヴレット
 11.5 伸張方程式の正則解
 11.6 ウェーヴレットによる超関数の正則関数表示
 11.7 演習問題
第12章 統計学における直交関数系
12.1 Fourier級数による密度関数推定量
 12.2 Hermite級数による密度関数推定量
 12.3 ウェーヴレット推定量としてのヒストグラム
 12.4 滑らかなウェーヴレットによる密度関数推定量
 12.5 局所的収束
 12.6 正値密度関数推定量
 12.7 ウェーヴレットによるその他の推定量
 12.8 演習問題
第13章 直交関数系と確率過程
13.1 K-L展開
 13.2 定常過程とウェーヴレット
 13.3 無相関な係数を持つ級数
 13.4 帯域制限確率過程に基づくウェーヴレット
 13.5 非定常過程
 13.6 演習問題
参考文献
索  引

内容説明

本書は、ウェーヴレットを主に直交関数系という側面から捉えた、ユニークな本である。直交関数系という数学的な内容を応用に関連させて提示している。超関数に関する知識は最小限に抑えて、効率よくまとめてある。

目次

直交関数の級数
緩増加超関数入門
直交ウェーヴレット入門
Fourier級数の収束と総和法
ウェーヴレットと緩増加超関数
直交多項式
そのほかの直交関数系
ウェーヴレット展開の各点収束
Shannonの標本化定理
平行移動不変性と伸張不変性
直交級数による正則関数表示
統計学における直交関数系
直交関数系と確率過程

著者等紹介

榊原進[サカキバラススム]
1968年慶応義塾大学工学部卒業(機械工学専攻)。1975年メリーランド大学大学院修了(Ph.D.理論物理学専攻)。ニューヨーク市立大学、アーヘン工科大学、ドルトムント大学、マインツ大学、いわき明星大学を経て、現在東京電機大学情報環境学部教授

万代武史[マンダイタケシ]
1978年京都大学理学部卒業。1985年京都大学大学院理学研究科博士課程研究指導認定退学。1986年理学博士(京都大学)。岐阜大学を経て、現在大阪電気通信大学数理科学研究センター教授

芦野隆一[アシノリュウイチ]
1981年京都大学理学部卒業。1989年大阪市立大学大学院理学研究科博士課程単位取得退学。1991年理学博士(京都大学)。京都大学数理解析研究所研修員、産業技術短期大学、オタワ大学客員教授を経て、現在大阪教育大学教育学部助教授
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