出版社内容情報
北村薫[キタムラカオル]
著・文・その他
内容説明
前作『六の宮の姫君』で着手した卒業論文を書き上げ、巣立ちの時を迎えたヒロインは、出版社の編集者として社会人生活のスタートを切る。新たな抒情詩を奏でていく中で、巡りあわせの妙に打たれ暫し呆然とする「私」。その様子に読み手は、従前の物語に織り込まれてきた糸の緊密さに陶然とする自分自身を見る想いがするだろう。幕切れの寥亮たる余韻は次作への橋を懸けずにはいない。
著者等紹介
北村薫[キタムラカオル]
1949年埼玉県生まれ。早稲田大学第一文学部卒業。89年、「空飛ぶ馬」でデビュー。91年、「夜の蝉」で第44回日本推理作家協会賞を受賞
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
中原れい
112
年越しをこの本でしたことになる、よいことだ(にんまり)すこーししか読めない日も多く、長くかかってしまったが輪郭のくっきりした話は迷うことがなくありがたい。「私」は会社員として手ごたえのある日々を送り、あいかわらず生きた博学とでもいうものを持ってる。円紫さんの視点で見つつ謎解きは私よりもっと不明な立場で見てしまう、いつもの読み方をした。謎の話題が大人になったなあと思う。句や歌の解釈はしてしまったら大家と意見が違っても譲りきれないものよね、ということも思った。あいかわらず解説も長い、愛されてるなあ^^2022/01/07
佐々陽太朗(K.Tsubota)
107
主人公〈私〉も社会人になっちゃったのか。なぜかこの娘が大人になっていくのが切ない。娘の成長を見守る父の気分になってしまっている。成長を応援したい。恋もして欲しい。しかし、それを思うとちょっと切ないのが親父の気持ちだ。今作は「恋」がテーマ。もし、次作が上梓されるならば、主人公の恋の行方が描かれるのだろう。読みたい気持ちと読みたくない気持ちが相半ばしてせめぎ合っている。いつか〈私〉が「虎」を指さしたくなるほどの恋をするのかも知れないと思うと、胸が張り裂けそうになる。親父の気持ちは切なく複雑だ。2012/04/28
ユメ
106
冒頭だけがまだ学生時代。相変わらず正ちゃんと江美ちゃんと三人娘で行動しているのを見て、その雰囲気が好きだっただけに、これからはこんな時間も減るのかと思うと感傷的になってしまった。〈私〉が正ちゃんのことを呼ぶ時に「我が友」と枕詞を付けるところが気に入っている。その後も三人の交流は続いていてほっとした。《時》が変えるもの、変わらないもの。シリーズを読み始めた時にはまだ歳下だった〈私〉が、私を追い越して大人になってゆく。再び追いつく時、私は〈私〉のようになれているだろうか。「本を深いものにする」読者でありたい。2015/11/03
ダイ@2019.11.2~一時休止
104
円紫さんその5。短編集。個人的にはこのシリーズは短編集の方が面白かった。女か虎かの話が出てきた時にはカイジを思い出した。2014/07/14
カロリーナ
95
再読☆ 「円紫師匠と私」シリーズ第5弾。3編収録の中編ミステリー。ミステリーよりも文学談義にシフトした印象(「私」シリーズと言った趣)。面白かったのは「走り来るもの」。“わたしは引き金を”の後に続く言葉を考えるという謎解き。答えはこれ以外にはあり得ない!と思わせる解答に大満足でした。赤堀さんには幸せになってほしい。表題作の綴じ方が本シリーズ中で一番美しかったです。これから彼女がどんな選択をしようとも、選んだ道はいつでも太陽のほうを向いていることでしょう。私自身が成長して、何度でも読み返したいシリーズです。2015/07/14