内容説明
女性ばかり四人の死体が京都市内の長屋で発見された。捜査の結果、女主人とその娘、それにかつての下宿人との三角関係が明らかになった。殺人か、それとも子供を道連れにした心中か。現実に起こった事件を、綿密な取材をもとに再構成した山本禾太郎の傑作長編『小笛事件』ほか、岡本綺堂、谷崎潤一郎、海野十三、水谷準、城昌幸等の秀作を集めた。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
J D
66
先日読んだ薬丸岳「最後の祈り」に関連して菊池寛「ある抗議書」を読みたくて手に取った本。大正8年に「中央公論」に掲載された作品らしいが唸った!ページ数は、「最後の祈り」の20分の1にも満たないが、訴えるものはそれ以上かも。死刑囚坂下鶴吉は、キリスト教の教誨を受け、死刑を安らかに受け入れ執行される。それが、美談のように扱われる。被害者遺族の気持ちは蚊帳の外。それだけに、被害者遺族の悲痛な叫びが胸に響く。うーん、大正に書かれているんだよね。2023/09/17
gtn
13
山本禾太郎「小笛事件」の一篇。「なんと云う醜悪な顔だ」「無類の惨虐を行い、卑劣な企みをもって人を陥れようとしたものの形相が、ありありと観取できるではないか」と自分に殺人の濡れ衣を着せようとした老女小笛の死相を思い浮かべる広川某。私もwikiで生前の小笛を見る。心の内面が外面に通ずることを信ぜざるを得ない。換言すれば、人間のいやらしさが剥き出しなところがこの事件の魅力といえる。2020/05/09
nac
8
『小笛事件』はノンフィクションノベルとして無類の面白さです。この一編だけでも、この一冊を読む価値があります。 それ以外に分けても面白かったのは「ある抗議書」と「魔」。特に「魔」は不思議な幻惑感に現代的な現実感が伴って存在する独特の一作です。2018/04/18
れどれ
5
傑作揃い。探偵と銘打ってはいるが主題とされるのは広義の犯罪で、謎解きの痛快さは軽視。しみじみ怪奇趣味が満たされる。水谷隼がすばらしく良かった。筆運びは洒脱きわまり、とても現実にありえそうにないのにギリギリ起こりうる奇怪な事件性も妙味にあふれ、隙がない。ほか、どの収録作も軽快であって軽薄でない、書き手の体重のっかってる力作ばかりで嬉しかった。2021/01/23
ジャム
3
日本探偵小説の名作短編を集めた豪華なアンソロジー!その中でも唯一の長編である山本禾太郎「小笛事件」は大正時代に実際に起こった事件を描いたノンフィクション!様々な証拠などを元に有罪か無罪かを争う裁判のシーンは鬼気迫るものがあり、現代でいうとテレビ番組の「アンビリバボー」をみているような臨場感がありました! 短篇では海野十三「振動魔」に始まる帆村荘六シリーズや谷崎潤一郎「私」(「途上」ではなくこちらのほうが印象に残った)、牧逸馬「上海された男」など粒揃いでどの作者の作品もそれぞれ味があり楽しめました!2015/09/29