出版社内容情報
●丸谷才一氏推薦――「こくのある、たっぷりした、探偵小説を読みたい人に、ぼくは中村能三訳の『月長石』を心からおすすめする。」
●ドロシー・L・セイヤーズ推薦――「史上屈指の探偵小説」
インド寺院の宝〈月長石〉は数奇な運命の果て、イギリスに渡ってきた。だがその行くところ、常に無気味なインド人の影がつきまとう。そしてある晩、秘宝は持ち主の家から忽然と消失してしまった。警視庁の懸命の捜査もむなしく〈月長石〉の行方は杳として知れない。「最大にして最良の推理小説」と語られる古典名作。
1 ~ 1件/全1件
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ヴェネツィア
412
T・S・エリオットが絶賛したというこの小説。1868年に出版され、ディケンズとはまさに同時代。実際に親交もあったようだ。推理小説の嚆矢とされているが、現代的な感覚からすれば悠長に過ぎる感も否めない。もっとも、表現はきわめて丁寧であり、推理小説であることを忘れるならば、ディケンズ風の19世紀小説として読めるだろう。また、表題ともなった月長石といい、謎のインド人たちといい、イギリス人好みのオリエンタルなエキゾティシズムがこの作品を支えており、本邦では乱歩あたりが好みそうな作品である。2022/09/17
夜間飛行
225
ヒンズーの呪いを受けた月長石の消失事件を受け、関係者の手記を集めるという設定である。手記の書き手達はそれぞれに人間的な偏りを見せつつ、いずれもヒロインの令嬢へ関心を向けることで話の軸がわかりやすくなっている。そこに身分の低いもう一人の娘の恋心が絡み、恰も月長石の神秘性が女性の心の秘密と一体化するかのような印象を受けた。手記と手記とが照らし合い、より大きな客観性へ開かれていく展開は、壮大だが飽きさせない。複数視点による人間観察の面白さ、社会の階層や宗教にも目を向けていく描写の妙…など、この長さも納得できる。2022/06/05
ケイ
125
コリンズと言えば「白衣の女」だと思っていたが、こちらの方が断然面白い。怪奇的要素を盛り込み、人生における大切な事はすぺてロビンソン・クルーソーにあるという堅苦しくない執事がいたりで、どこを怪しい点と推理していくべきかがわからず、読者は次々にあらわれる犯人候補に踊らされる。この長さで色んな要素を盛り込み、それで内容が破綻せず、かえって面白くしている作者の腕がすごい。新装復刻してたくさんの人を楽しませて欲しいものだ。2016/07/15
のっち♬
97
相続者の誕生日に忽然と姿を消したインドの秘宝の行方を追う過程が複数の関係者により綴られる。展開は遅めでかなりボリューム感のある大河的推理小説だが、個性豊かな人物がいきいきと描かれており、読み手を退屈させない卓越した語り口や見事に照応する緻密な構成も魅力的。格調高い語りで親近感を沸かせる老執事を筆頭に、部長刑事、弁護士など労働者に温情ある好人物が多く、中でも代行医者の挿話はメロドラマ要素を圧倒するハイライト。狂信者のクラック嬢の存在も風刺とユーモアが効いている。階級社会に対する著者の視線が随所に窺える作品。2018/07/07
KAZOO
92
中学生の頃リトールド版で読んで非常に推理小説の割にはインドなどが出てきて印象深く感じた覚えがあります。その後、この厚い本も読んだのですが忘れてしまって、再度挑戦したら思い出しました。それでもやはり字は小さいし、長すぎという感じがし年寄りにとってはしんどいと感じました。この作者の「白衣の女」も読んだのですがそちらのほうが読みやすい感じがしました。私は最初に読んだエッセンスのほうがどうも印象に残っています。2014/02/11