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内容説明
雪に埋もれた海辺に佇む「兎屋敷」の薄明りのなか、風変わりなひとりの娘と従順な一匹の犬が交わす長いたくらみ。この世のだれひとりとして傷つけることなく、わたしたちが手に入れられるものとは。ポスト・ムーミンとして澄み切った文体で描かれた、著者渾身の傑作長編。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
榊原 香織
72
ムーミン作者の大人向け中編。 パサっとしているというか、あまり登場人物の心情に同調できない。 成功した一人暮らしの画家、これは作者の自画像でしょう。 そこに無理やり入り込む女性。 飼っている犬に名前を付けていない(しかもシェパード) それだけでも精神的な壁を感じる2022/02/04
mii22.
52
トーベ・ヤンソンコレクション〈2〉北欧の冬、深い雪に閉ざされた海辺の寒村。寂しく茫漠たる情景が目の前に広がる。ヤンソンの描く北欧の風景はやはり素晴らしい。二人の女性の親和と確執が物語の中心となっている。互いに深く影響しあうふたり。人の内面奥深くに自身でさえも気づかないようなエゴや情念もえぐり出すようなところもある。誠実さとは、信頼とは..作中で裏返しになるすべての事柄は春の訪れとともに氷のように砕けて溶け消え去るのだろうか...喪失感とカタルシスを感じるラストは不思議であり、また清々しい。2016/03/14
寅三奈
11
誠実さというのは、時に甘味を奪い、厳しい現実を突きつける。だが、奪われたからと言ってそれが何になるのだ?その甘味というのはなまぬるく、おぼろげなものなのだから。2018/10/28
乙郎さん
9
★★★★★/最初はカトリやアンナのキャラクターが掴めず、読むのに難儀した。しかし、中盤を過ぎて作者の伝えんとすることを掴めてからはページを捲る手が止まらなかった。つまりだ。アンナの持つ甘ったれた部分は確かに自分の中にあり、それを無意識で自己弁護していたわけだし、カトリはその欺瞞を暴いてくれた。大人の寓話として高い純度を持った傑作。恐らく僕はこれから先何度か読み返すでしょう。2011/04/08
やま
8
なんとも不思議な物語だ。数字の強いカトリが画家のアンナの家に住み始める。お金のことや冷蔵庫の整理、書類や物の片付けなどを始める。無垢なアンナと生真面目なカトリ。北欧のおそらく11月から3月の雪解けが始まる頃の話だろうか。季節を表す雪や森、凍った池の描写を読むと、北欧独特のモノトーンにしてスギやヒワの灰緑だけが残る森が映像として浮かんでくる。マッツのボートやカトリの犬のエピソードを織り交ぜて静かに物語が進んでいく。大人のファンタジー。2017/09/22