内容説明
“誰かが私を三十万円で買ってくれないだろうか”OL矢沢章子は弟が作った不慮の借金を自分の身体を売った金で返済することを決意。結婚を考えた恋人に心の中で別れを告げ、知人の紹介で長谷川という会社社長と愛人契約を結ぶ。金銭による義務的な取引と割り切っていたはずが、関係を深めるうちに感情が変化していく。そして契約期間6カ月の終わりが近づき…。
著者等紹介
源氏鶏太[ゲンジケイタ]
1912‐1985年。富山市生まれ。本名、田中富雄。富山県立富山商業高等学校卒業後、1930年に住友合資会社に入社、会社勤めのかたわら懸賞小説に応募するなど執筆活動を行い1951年には「英語屋さん」他で直木賞を受賞する。1956年、退職し小説家に専念、1958年からは直木賞選考委員も務めた。長年の会社員生活をもとに企業を舞台としたユーモア溢れる「サラリーマン小説」を多数発表し、その多くは映像化もされた。1971年、吉川英治文学賞受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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じいじ
85
源氏鶏太はとても懐かしい作家です。でも、ラジオ・TVドラマは、昔たくさん見聞きしましたが、小説は初読みです。とても温かみのある話で面白かった。さしずめ、今の作家なら奥田英朗・重松清を彷彿させます。弟の三十万円紛失ー弟想いの姉が考えた借金返済は奇想天外…とても愉しい恋愛コメディです。1960年代に新聞連載されたものですが、懐かしさこそあれ、旧さを感じさせません。コロナ禍の憂さを吹き飛ばすように笑わせてもらいました。エンディングは、「この続きは、読み手それぞれで想像をしなさい!」は、重ね重ね面白いです。2022/07/25
旗本多忙
21
男と女が居て、会社があって、社内での恋愛、その行き帰り、そして休日があり、銀座渋谷でデートを重ねる...人の恋路には当然ながら障害や邪魔が入るものだ。突然に30万円の大金を工面しなければならくなった章子は、ある行動にでてお金を手にした....そして6ヶ月という期限の中で、世間擦れしてない章子は恋を知り、男を知るのだが、一方自分の心に思うことに逃避しながら、次第に現実を受け入れるようになる。不可解な長谷川だが、この結末で僕は良かったように思う。御身を大切に。でも、章子ってかなりしつこいわ(笑)2022/11/16
Mayrin
10
かなり古い小説のようですが、とても読みやすく1日で読了。面白かったです。出逢いは...ですが、幸せそうで良い。ただ、弟くんが知ったら複雑ですね😀2019/12/28
MIKETOM
7
源氏作品にしては珍しい作風。章子(24)は弟と二人暮らし。弟が会社の金30万円を紛失してしまい(貨幣価値はたぶん10倍以上)章子は某会社社長と半年の約束で愛人契約を結ぶ。章子は性交未体験であり恋人もあった。しかし弟のために全てを諦めようと決心する。弟には絶対に言えない秘密。恋人も、急に冷たくなった章子を諦めずに誠実に対応しようとする。心の中の激しい葛藤、しかしそれも運命と諦める。やがて意外に誠実な会社社長に惹かれ始め、そして約束の半年が間近に迫り…。誰かの幸せと誰かの哀しみ。同情せずにはいられなかった。2023/10/05
Kotaro Nagai
7
本日読了。本作は昭和36年6月~37年9月まで婦人公論に連載されました。弟の不始末で30万円が入り用になり、そのために6ヶ月30万で自身を売るという決意をするヒロイン。そのヒロインを買う中年の社長と一途に想うヒロインの恋人との間にゆれる心模様を描く。これが昭和36年の婦人公論に連載されたというのは少々驚きです。ちくまの源氏鶏太は、「青空娘」「最高殊勲夫人」についで3本目。読みやすいのですが、どうもヒロインの即物的というか場当たり的な行動が好きになれず、もっと心の深いところの葛藤を描いて見せてほしかった。2019/09/24