出版社内容情報
日常の裏側にひそむ神秘と怪奇を淡々とした筆致で描く、英国短篇作家コッパードの詩情あふれる珠玉の短篇集。評価の高い西崎訳に新訳1編を追加。
内容説明
虎の皮を被ってライオンと戦うはめになった男が、見世物の檻の中で出会ったのは…。ユーモラスな展開の中に人生の深淵を垣間見る「銀色のサーカス」、母の乳房、脈打つ心臓、鼠取り、砕かれた手…。精緻で謎めいたイメージが交錯する「アラベスク―鼠」、電信柱と柳の木の奇妙な恋物語「若く美しい柳」など、日常の裏側にひそむ神秘と怪奇、啓示と奇蹟を詩情ゆたかに描くコッパードの珠玉の短篇集。
著者等紹介
コッパード,A.E.[コッパード,A.E.] [Coppard,Alfred Edgar]
1878‐1957。イギリスの作家・詩人。ケント州の港町に生まれ、様々な職を転々とした後、短篇や詩の執筆を始める。第一作品集『アダムとイヴとツネッテ』(1921)は高く評価され、短篇小説の名手として人気を博した
西崎憲[ニシザキケン]
1955年青森県生まれ。翻訳家・作家・アンソロジスト(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
巨峰
72
10つの寓話性にみちた短編集。「若く美しい柳」、「ポリー・モーガン」あたりが好きです。他のものより落ちがわかりやすいからかな~。光文社古典新訳文庫の短編集よりこちらのほうが好きだったな。僕には解らなかったものも含めて、質が高いと思いました。2016/09/26
藤月はな(灯れ松明の火)
72
足元の影がぞわりぞわりと這い上がってくるような不安を覚えるような幻想短篇集。「若い美しい柳」、「辛子の野」は切なく、残酷で物悲しい話である一方、「ポリー・モーガン」の誰もが抱えるであろう虚しさを秘めた語りに思わず、ため息をつかずにいられません。「うすのろサイモン」や表題作、「シオンへの行進」は聖書絡みなので聖書片手に読んだら楽しいかもしれません。個人的な一番は「アラベスク―鼠」。鍵穴から室内を覗いていってやっと視点が定まった時のような語りから事態を把握した時の衝撃が凄かったです。2014/10/09
sin
65
奇妙な味の掌編…いや西洋によくあるフォークロアなほら話かと思いきや存外に繊細な物語に出会いました。それぞれの掌編に含まれたやさしさ…いいえ人生の諦観が感じ取れます。なかでも“アラベスクー鼠”は母の鼓動を軸にして生き物の平等を匂わせながら、人生の不平等を分相応という諦めでもって世間を渡る人間と、害獣として駆除される鼠の対比が絶妙でもののあわれを誘います。2015/08/18
やせあずき
50
新聞で紹介されていて、気になった本。著者を全く知らず、本の題名からも、全く内容は推測できませんでしたが、10作の短編集それぞれに趣向が異なっていて読み応えがありました。決して読みやすい文体ではなかったですが、不思議で謎めいたストーリーや、えっ、という残酷な結末がさらっと描かれているあたり、独特の読後感でした。2014/10/21
優希
49
日常の影にある神秘や奇蹟といった不思議な空気をまとった短編集でした。表情豊かな世界に浸っている時間が心地良かったです。2022/01/25