内容説明
近代ヤクザとは何か?それは日本の近代化が必然的に生み出した存在としてのヤクザ=山口組を意味する。かつて、炭坑や港湾などの下層労働社会、さらには芸能・興行界など、法の支配が及ばぬ領域を統治していたのがヤクザであった。社会とともに変貌を遂げたヤクザ。そして現在、傘下人員4万人ともいわれる強大な組織に成長した山口組、その100年近い歴史をたどる。
目次
第1章 山口組の誕生―仲仕からヤクザへ
第2章 新興山口組の発展と衰退―米騒動から敗戦まで
第3章 闇市の混沌のなかから―窮民アウトローとしての出発
第4章 港の顔役―山口組の港湾支配
第5章 大衆芸能の裏側―美空ひばりと山口組
第6章 高度成長と全国制覇―頂点に立った山口組
第7章 被差別民の前楯、後楯―被差別部落・在日コリアン社会とヤクザ
第8章 対抗権力としての近代ヤクザ―山口組壊滅せず
第9章 近代ヤクザの変質と終焉―日本のヤクザが終わるとき
著者等紹介
宮崎学[ミヤザキマナブ]
1945年京都生まれ。父は伏見のヤクザ寺村組親分。早稲田大学中退。在学中は日本共産党系の学生運動に参加、ゲバルト部隊の最先頭で、対立党派との衝突をくりひろげる。その後週刊誌記者などを経て、実家の建築解体業にもたずさわる。それらの経験を描いた『突破者』でデビュー(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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白義
18
ヤクザ、山口組の歴史をたどりながら、近代日本自体を著者のアウトロー史観で多角的に考察する、壮大な名著。在日や部落、ヤクザなど中心から排除されながら、周縁として中心を活性化させる存在から明治以降の日本を射抜く、歴史書としても思想書としても存外射程の広い本だ。山口組、ヤクザの90年史は日本の表社会学が排除してきたものがいかに集まり、独特の共同体を築きそれを救済するかの歴史でもある。それを時にフーコーやシュミットら思想家、時にヤクザや警察の肉声を使いながらその意味を明かすところに著者自身のアウトロー性を感じた2011/09/15
モリータ
12
◆原著2007年、文庫2010年刊。大正時代に神戸港の荷役労働者(沖仲士)の組として出発した山口組の通史。下請けの流動的な労働力供給に頼る港湾荷役業において、下層社会から集まる非熟練労働者を統括する仲介者として、あるいは公権力・法支配の及ばない被差別社会や在日コリアン社会との媒介者として、下層・周縁的社会の共同体・部分に基盤を持っていた近代ヤクザ(組織)は、高度経済成長とともに、共同社会ではなく機能性に協働性が埋め込まれた企業=利益社会に基盤を移行させた、という流れ。◆多くの資料・証言を材料にしている。2021/02/26
魚京童!
12
http://kuzirappa.blog.fc2.com/blog-entry-1497.html2014/04/01
rakim
7
すべてが実証だとは言えないにしても、日本近代史でタブーとされていた部分が明らかにされていると思います。興行や政治運動の中で確実に場所を持っていたヤクザ社会は、今現在は肯定はできないにしても、否定しきれない部分も確かにあると思っています。(これは個人だから言えること。現在の芸能界や相撲界での問題は別に考えなくてはならないのでは?実際にこの本の中でも、吉*興行や相撲界との昔の関わりが描かれています)。読む価値のある一冊でした。2011/09/13
OjohmbonX
5
明治以来の山口組の経緯を中心に、ヤクザが社会に対してどの位置を占めてどんな役割を負わされてきたかめちゃくちゃ丁寧に見て、通念や思い込みを壊して目から鱗。例えば60年代以降は全国制覇を目指していたというより自己増殖する資本主義にコミットした結果拡大せざるを得なくなったとか、91年の暴対法が近代ヤクザから現代ヤクザへ変質する最後の一押しになったとか。ヤクザという一側面でも中まで覗けば、日本の社会構造の変遷まで見渡せる。組長の子として育ち、当事者への取材、文献の調査を欠かさない実証性の上で成り立つありがたい本。2014/05/03