内容説明
自己が生命の根拠に支えられて世界と出会う行為的原理である「あいだ」。その構造を、ゲシュタルトクライス理論に拠りつつ、ノエマ・ノエシスの円環的関係を西田哲学の「行為的直観」と関連づけて、多面的に解き明かす。自己が主体として生きるということは、生命一般の根拠の「おのずから」の動きにかかわると同時に、間主体的な世界を維持することではないか。ユクスキュル、ブーバー、レヴィナスらへの言及を通じて自他の関係を考察し、ダブル・バインド仮説の可能性を改めて問う。独自の学問的地平を切り拓いた著者の世界をわかりやすく示す。
目次
生命の根拠への関わり
主体と転機
音楽のノエシス面とノエマ面
合奏の構造
間主体性とメタノエシス性
主体の二重性
共通感覚と構想力
「あいだ」の時間性:アレクシシミアと構想力
「あいだ」の生理学から対人関係論へ
我と汝の「あいだ」
もしもわたしがそこにいるならば
絶対的他者の未知性
こと・ことば・あいだ
「あいだ」の病理としての分裂病
ダブル・バインド再考
「みずから」と「おのずから」
結び
著者等紹介
木村敏[キムラビン]
1931年、旧朝鮮生まれ。1955年、京都大学医学部卒業。京都大学名誉教授、河合文化教育研究所主任研究員。専攻、精神病理学。1981年に第3回シーボルト賞、1985年に第1回エグネール賞、2003年に第15回和辻哲郎文化賞受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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KAZOO
80
木村先生の「人と人との間」を読んでいたのですが、それよりも難しい感じがしてもっと根源的な感じの話です。小冊子なのですが、人間の生きるということに関して「あいだ」ということがどのような意味を持つのかが解説されています。エッセンスという感じなので、理解するにはかなり読み込む必要があると感じました。以前に経済学の岩井克人先生が人と人の間について研究されていると聞いたのですが?2024/02/13
Bartleby
11
本書では現象学の「ノエシス」概念が有機体が環境の中で行う生命的行為として捉え直されている。ノエシス的行為はノエマ的表象を作り出す。作られたノエマ的表象もまたノエシス的作用をもっていて、そのノエマを作った元のノエシス的行為に影響を与える、そう考えることでノエシスとノエマとの関係を円環的なものにしている。これだけだと何のことだか分からないけど、この本は音楽の演奏等を例に用いて説明しながら、普段の経験の中にもこの二重のノエシスが働いていることを実感させてくれる。著者の本の中でも読んでいて楽しい本でした。2014/04/21
kinoko-no
4
個人あって「あいだ」あるにあらず、「あいだ」あって個人あるのである。…まだまだ理解できないことばかり。いつか再読しよう。2010/05/26
arisa
3
とりわけ面白かった箇所:サイケデリックスの作用=意識のノエシス量を増加させて出会うものすべてが「汝」的に見えるようにする という部分。統合失調症が「実相が見えすぎている」状態だとすると、つまりpsyche-delic=精神展開、精神出現状態、あらゆる事物に対して常に「汝」的な出会い方を「問答無用で強いられている」状態ではないか?LSDの脳内作用機序を解き明かすことで、統合失調症のアタマの中で起きていることに迫れるのではないか。。2023/04/05
森江 蘭
2
生きとし生けるものは「何か生命の根幹」とつながっている。それは自己と他者の「あいだ」だけではなく、自己と自己との「あいだ」であり、自己を自己たらしめる絶対的他者との「あいだ」なのだそうだ。なかなかわかりにくいな、と思ったところでふいにわかりやすい比喩が挟まってくるので面白く読めた。メタノエシスとしての生命の根幹。そこから流出してくるノエシスは無意識に人を動かし、ノエマ的表象を生み出し、生み出されたものはノエシスとなり、再び循環する…。手に届きそうで届かないもどかしさを感じた一冊。また読み返してみたい。2022/09/16