内容説明
ヨーロッパ古代世界に最大の版図をもち、多年隆盛を誇ったローマ帝国はなぜ滅びたのか。この「消えることのない、永遠の問い」に対する不朽の解答―18世紀イギリスの歴史家E・ギボンの名筆になる大歴史書の完訳。ローマ帝国が東西に分裂し、東ローマにコンスタンティノポリスが誕生する。この基幹都市をつくりあげた英雄コンスタンティヌス帝のキリスト教への改宗と、それを忌避し「背教者」と呼ばれることとなったユリアヌス帝の生涯と信仰を描く、興味尽きない一巻。
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ロビン
16
3巻はついに自らもキリスト教に改宗したコンスタンティヌス帝の治世の続きから、その息子コンスタンティウス2世、更に甥の<背教者>ユリアヌス帝の治世、そしてその間のキリスト教徒の動き(アリウス派とアタナシウス派の対立やニケ―ア公会議など)が描かれる。幼少期から親族の仇の懐で成長した故なのかその若さに似合わないユリアヌスのキリスト教に対する処遇の老獪さが印象的。ギボンの、キリスト教徒側にも異教徒側にも偏らない公平で理性的な立ち位置ーそれぞれの狂信と世俗的利害からの改宗に対する批判的な物言いに非常に好感を持った。2023/08/14
まふ
4
コンスタンティヌス大帝からコンスタンティウス2世帝にかけて、次に登場するユリアヌス帝の治績が描かれてある。なかなか読みにくい訳文である。だが、中野氏の達意の文章はそれなりに面白い。ユリアヌスのギリシャ・ローマ多神教への帰依とキリスト教の嫌悪の状況がよく分かる。辻邦夫の「文学」では読み取れなかった歴史的事実が極めて明瞭に理解できた。改めて「背教者ユリアヌス」が本来よりも相対的な高さで評価されていることを感じた。買いかぶっている、というところだ。あるいは大部の書物を書き上げたことへの単なる「ご苦労様」だ。2002/02/01
しんすけ
4
人類なる生態が共生空間内で団結できるのは共通の敵が明確に存在するときだけでないか。ローマ社会から蔑視されていた時期のキリスト教集団内には内部対立は皆無でないにしても、特出するほどのものはなかった。ところが、コンスタンティヌス大帝によって、一宗教として認可されてからは、内部対立が激しくなる。その暴力的な様は、かってのローマ帝国のキリスト教迫害を大きく上回って惨たらしい。前巻では群小皇帝たちの派閥闘争にギボンの筆の冴えを観たが、今回はキリスト教という形で同様の感慨に浸ることができる。2017/04/25
うた
4
キリスト教を国教としたコンスタンティヌスと、その血縁にあたる哲人皇帝”背教者”ユリアヌス。もし彼がコンスタンティヌス以前に生まれていれば、ヘレニストと揶揄されながらも力のある皇帝になっていたのかもしれない。それぐらいに皇帝になるまでの彼は魅力的に描かれている。しかしすでに力を持ち始めたキリスト教勢力を急速に抑え込もうとした結果、国に歪みを生むことになる。ギボンが言う異教的狂信や塩野さんが言う多神教への回帰と信仰の平等化というよりも、ユリアヌスの個人的な執着が政策に反映されているという印象を受けた。2012/08/12
刳森伸一
3
本巻はコスタンティヌス大帝の治世から背教者ユリアヌス帝の戴冠とその政策まで。世俗的な情勢と宗教政策とが別立てに書かれている。世俗パートでは、コンスタンティヌス大帝の死後の内乱からコンスタンティウス2世の再統一、そしてユリアヌスの台頭と帝冠までが緊張感のある文体で描かれていて、トゥキディデスの『歴史』のような古代の史書を彷彿とさせる。ギボンはコンスタンティヌス大帝の前半生を高く評価するが、後半生については否定的。そしてコンスタンティウス2世に厳しく、ユリアヌスを讃えている。(続く) 2017/01/06