内容説明
『ニーベルンゲンの指輪』の上演に失望を隠しきれないニーチェは、いよいよヴァーグナーとの訣別を決意する。彼は、ますます昂進する持病の頭痛・胃痛・眼痛の療養もかねてイタリアへ避難し、友人との共同生活のなかで少しずつノートを書きためていった。それが、のちのちまでニーチェの文章形式を決定づけることになるアフォリズム集の第一作『人間的、あまりに人間的』であった。そこでは、形而上学・宗教・芸術(そして、ヴァーグナー)が徹底的に批判され、既成の偶像の暴露心理学的解体が試みられる。ニーチェ中期の思想の端緒。
目次
第1章 最初の事物と最後の事物について
第2章 道徳的感覚の歴史のために
第3章 宗教的生活
第4章 芸術家や著作家の魂から
第5章 高級文化と低級文化の徴候
第6章 交わりの中の人間
第7章 女と子ども
第8章 国家への一瞥
第9章 ひとりでいる人
友らの間で 終曲
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
shinano
18
読書する苦しさを感じながらページに目を置いていくことがあるならば、わたしはニーチェの著作を挙げます。ニーチェ著作をすらすら読めるなどとは端から思ってはいないが、やはり少しでも微々たるものであっても汲み取りたい。自分が人間世界で進んで獲得してきたもの(考え)や、強制的に叩き込まれたもの(評価など)で、ニーチェの箴言と相撲をしても組み合いになる以前に、土俵外に放りだされるか、足元直下の土につかされてしまう。勝負にならない。多々な事象や人間への洞察深さと心理学的分析された言葉の連綿に、不理解なのに魅力を感じた。2011/06/17
∃.狂茶党
15
DSBM=Depressive suicidal black metalや、Funeral Doomなどを聴きながら読む。 これらの音楽はニーチェからネガティブなものを引き出した、メタルミュージックかもしれない。 今のところニーチェはネガティブの正反対にいるようだが、宗教への視線は、ペイガニズムにも関連する。反キリストあるは、非キリスト姿勢はメタル、特にブラックメタルに多大な影響を与えた。 それは、ニーチェの口にするギリシャの神々ではないが、祖霊に近いものだと思われる。 2023/07/16
呼戯人
14
ロマン主義的な芸術家形而上学を主張し、ワーグナーとの共闘によってドイツ文化の更新を図ろうとしていたニーチェであったが、バイロイトでのワーグナーの音楽を聞き、自分の意図していたことが全くの誤りであったことを悟ったニーチェは、ただ一人漂泊者とその影となり、実証的な人間の心理の機微、道徳の起原に考察を進めてゆく。悲劇の誕生で切り開いた芸術と哲学の融合から脱し、ひたすら孤独な自由の精神になって諸国を放浪する。無意識から立ち昇る理性を越えた身体や本能の声を聞きとり、人間の本性を暴いてゆく。2016/09/14
34
10
10代のころわたしがはじめて読んだ哲学者がニーチェで、そのときのようにニーチェを読み返した。『人間的、あまりに人間的』は哲学者の著作というよりパスカルやラ・ロシュフコー、萩原朔太郎のアフォリズムと一緒に脈絡なく拾い読みしていた。今回通読してみてもっとも新鮮な印象を受けたのは1886年ごろに書き足された序文と、この著作の最初の草稿のタイトルが「鋤の刃」と名づけられたという事実であった。ニーチェはまだニーチェになっておらず、ストア派の賢人やフランスのモラリストといったアフォリズムの大家の模倣者である。2021/12/31
愁
5
解析や考察等は他の方にまかせて、個人的にはパワーとユーモアのある詩として楽しみました。読んでいてある種の爽快感がありますし、時代は違えどはっと気づかされる事も多くあります。ニーチェの作品の中でタイトルが一番好きですね〜。