内容説明
親友を裏切って結ばれた野中宗助・御米夫妻は、いま崖下の借家でひっそりとくらしている。幸福にひたりながらも罪の意識に苦しむ宗助は、ついに禅院の門をたたく…。市井の幸福のかげにひそむ精神の地獄を鋭い心理描写とともに描き切った『門』。許婚者千代子との愛情問題を軸に孤独な知識人須永の苦悩を描きつつ、作者のそれを映し出す『彼岸過迄』。それぞれ漱石の後期の転機となる問題作。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
優希
66
『門』と『彼岸過迄』がおさめられています。『門』には幸福の中の罪が描かれているように感じました、幸福の影には精神の地獄というもう1つの世界があるのですね。それでも日常の中の平凡な幸せはあるわけで。『彼岸過迄』は愛情が軸になっているからこその苦悩の孤独が胸に刺さります。一見暗い物語ですが好みです。2020/05/23
mm
22
「門」と、修善寺の大患後に連載を始めた「彼岸過ぎまで」の二作。彼岸過ぎまではには連載前に漱石の言葉があって、短編の連作で長編にしたものを書きたい、久しぶりなのでなんとか面白いものを、正月明けから初めて、とりあえず彼岸過ぎまでは連載するつもりだからこのタイトルにした、という事が述べられている。この作品ではいくつか試してみたんだろうなあと、感じられる要素はあるものの、もひとつうまく噛み合わなかったという印象です。でもヒロインの書き方は良かった。すっきりしない男に、卑怯と言い切る女の潔さと腹立ちと、悲しさ。2022/12/10
tokko
17
前期三部作のひとつ「門」の静かな苦悩もいいけれど、「彼岸過迄」の須永と千代子の何とも言えない複雑な関係がうまく描かれている。夫婦なのか友達なのか、あるいは敵なのか、須永の生い立ちも含めて難しいですよね。漱石の小説ってずっと低徊しているようで、あるタイミングで一気に核心に肉薄するので注意が必要です。2017/04/04
あくび虫
6
前巻の方が面白く読めました。『彼岸過迄』は前半は面白く読みましたが、後半は冗長かなと。前半と後半が別物の趣で、行き当たりばったりに感じてしまった。前半の心持ちで後半に突入すると冗長だし、後半だけで思い返してみると前半は蛇足ばかりのような。2022/09/23
hitsuji023
6
「門」は決して明るくない話だが日常の何でも無い話なのに結構読ませる。見方に寄ってはきわめて平凡な幸せを享受しているようにも見える。夫婦の仲がいいのだ。それと悟ろうとして悟れないところとか用事を後回しにしてしまういい加減さや優柔不断な所が見える主人公の性格に認めたくはないが似たような所を感じて共感してしまう。年を取っても再読出来る作品だ。 「彼岸過迄」は話の内容が入ってこず途中で挫折。またの機会に。2016/09/19