内容説明
震災後の東京の町を歩き、バラックのスケッチから始まった〈考現学〉。その創始者・今和次郎は、これを機に柳田民俗学と袂をわかち、新しく都市風俗の観察の学問をはじめた。ここから〈生活学〉〈風俗学〉そして〈路上観察学〉が次々と生まれていった。本書には、「考現学とは何か」をわかりやすく綴ったもの、面白く、資料性も高い調査報告を中心に収録した。
目次
ブリキ屋の仕事
路傍採集
焼トタンの家
東京銀座街風俗記録
本所深川貧民窟付近風俗採集
郊外風俗雑景
下宿住み学生持物調べ
新家庭の品物調査
井の頭公園春のピクニック
井の頭公園自殺場所分布図
郊外住居工芸
宿屋の室内・食事一切調べ二つ
カケ茶碗多数
洋服の破れる個所
露店大道商人の人寄せ人だかり
女の頭
学生ハイカラ調べ
住居内の交通図
机面の研究
レビュー試験場はさまざまである
物品交換所調べ
考現学とは何か
考現学総論
「考現学」が破門のもと
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
keroppi
76
ある学芸員の方から今和次郎のことを聞いた。私はよく知らなかったので、今入手出来るこの本を買った。彼は、関東大震災を境に考現学なるものを始めた。考古学に対しての考現学。とにかく今を採取し今を見つめるのだ。誰も見向きもしなかっただろうことを執拗に観察記録する。炉端や家、道ゆく人たち、机の上、露天大道商人の人寄せ人だかり、等々。井の頭公園自殺場所分布図なんてものもある。それをまた細かく絵にしてある。この絵だけを見てもアートである。今見ると、この時代の文化が見える。マーケティングとも言えそう。凄い人がいたものだ。2024/01/14
はちてん
34
元祖トマソン。なんだろうこの偏執狂的行動力。踏み込み方が入門ではありません。楽しくて身悶える。著者今和次郎は関東大震災後バラック装飾社と考現学を始め、風俗・服飾・家政などにおよぶ。見よ!この手書きのイラストを!かの河童氏を越える!いや著者が先駆だった。「洋服の破れる箇所」「井の頭公園自殺場所分布図」「本所深川貧民窟付近風俗採集」などなど興味は尽きない。決してふざけではない真面目な著作で資料的価値も高い。著者が2015年の今を見たら…。2015/03/04
いちねんせい
21
大正時代にこんなことをやっていた人がいたなんて。例えば東京銀座街風俗記録では、京橋から新橋の歩道を歩いている人の性別、年齢層、髪型やら、ネクタイやら髭やら和服と洋服の比、スカートの丈、足袋の色やらが絵とともに詳しくまとめられているのだけれど、とても面白く、へぇー!とか、はー!とか言いながら読んだ。この人が平成を見たらなんと言うだろう。昔住んでいた場所は1920年代はこんな風だったのかと思い、井の頭公園にいる人の観察とか茶碗の欠ける箇所など、そこ?!と思うようなところも細かく記録されていて堪能した!2016/01/14
まふ
16
「考現学」の創始者である著者の古典的力作。と言っても「学問」までには至っておらず、「そうありたい」的願望の発露。一応「理論」的解説はされるがどこまで「学問」に近づいたかは判定が難しい。「考古学」の現代版が「考現学」だというが、気持ちはよくわかる。衣食住のうちの食を除いた部分の観察記録だと思えばよいか。観察だけに図示する必要があり、絵が上手でなければならない。今氏は芸大の図科を出ているので絵がうまく、よくわかる。だが、観察し、データが揃ったところで「何が分かったのか」が分析できないと難しい。2021/11/27
ymazda1
5
街を歩く人の服装とかの細かな統計を、自説を唱えるためではなく、言わば、「現在」を保存するために、地道に作成しつづける作業には、まさに、考古学⇒考現学という表現が似合ってる気がする。 たとえば、過去にケミカルウォッシュが流行ったという事実はあっても、その当時の人がどういう割合でどういう服装をしていたかは、今となっては簡単には判らないわけで、考現学みたいな「現在」を保存する学問がもっと大切にされてもいいんかな?って思った。