出版社内容情報
与力、同心、岡っ引き…北町奉行所の狼たち、悲喜交々の人間模様を描く。2015年惜しまれつつ亡くなった著者が遺した傑作短編集。
内容説明
為吉は幼いころ呉服屋の跡取り息子だったが、両親を押し込み強盗に殺されていた。その後、北町奉行所付きの中間となっていたが、両親を殺した盗賊集団の首領が捕まったとの知らせが届く。その首領の発したひと言は為吉の心に大きな波紋を広げて…。2015年に急逝した著者が遺した渾身作。執筆の経緯を綴った単行本未収録のエッセイを収録。
著者等紹介
宇江佐真理[ウエザマリ]
1949年北海道函館市生まれ。95年「幻の声」でオール讀物新人賞を受賞しデビュー。99年『深川恋物語』で吉川英治文学新人賞を受賞。2001年に『余寒の雪』で中山義秀文学賞を受賞。2015年11月逝去(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
じいじ
114
執筆中に乳癌が見つかり、宇江佐真理の絶筆になってしまった作品。江戸・北町奉行所に関係する人々の日常を綴った物語。宇江佐さんが最期の気力を振り絞った作品だけに、読むのにも気合が入った。6話の連作短篇、どれも著者の持ち味を感じる面白い話ですが、個人的には妻の鑑を描いた【与力の妻・村井あさ】が凄く気に入った。夫を支える妻の立場、女系家族における婿養子の立ち位置…など、夫の描写が面白い。複雑に絡み合った糸を、最後は鮮やかに解きほぐしてくれます。思わず「宇江佐さん、上手い!」と唸ってしまった。2017/12/22
ふう
81
罪を犯す人とそうでない人の分かれ道はどこなのでしょう。生来のものなのか、置かれた場所なのか…。この作品に登場する罪人たちは、周りから認められず貧乏や虐待の中で育った者が多いのですが、宇江佐さんの文からは彼らの愚かさを嘆くと同時に、誰かが手を差しのべていれば救われたかもという切ない思いが感じられます。温かい言葉、温かいご飯。そんな小さなことを幸せに感じてつましく生きていけばいいと宇江佐さんの声が聞こえてきそうです。2018/02/24
キムチ27
54
宇江佐さんの体調悪化時に執筆されたと聞く・・だからか、、読み進めると随処に優しい視線を感じる。以前より思っていたが人情モノの時代小説は社会福祉の基が流れている。児童福祉(乳幼児、学童期、青少年期)時には発達障害と思われるような描写が有ったり、虐待もどきが有ったり。無論、江戸期にはそういった思考そのものがなかったと思われるので作者がその時代を舞台にして想いを綴って行っていると理解しているけれど。恐ろしいほどに平板で狭い社会で生きつつも、精一杯努力して、自らを鼓舞して、けなげに丁寧に生きてきた人々の生活がある2018/01/10
もんらっしぇ
38
呉服屋の跡取り息子だったが生家を強盗に襲われ、親、奉公人たちを全て殺され1人生き残り奉行所の中間を生業としている主人公・為吉。犯人とおぼしき者は何十年も経って捕まるがそれが本当の真犯人なのか?疑問を残しながら刑場の露に…与力、同心、岡っ引きそしてその家族達の人間模様。最後には為吉も結婚し幸せをつかむのですが霊能者の姑という面白いキャラも含めこの続きもぜひ読みたかったところ。終始淡々とした語り口は今から思えば作者の体調の悪さがうかがえる感は多々ありますが人情と道理と不運と幸せのバランスの塩梅が秀抜の一作。 2020/01/13
moonlight
37
タイトルは『為吉』だけど奉行所に関わる様々な人々を描いた物語。大店の跡取り息子だったのに押し込み強盗で両親も店も失った為吉。17歳で奉行所の中間となり、親の仇と対面するも… 。ドラマチックな始まりに比して意外と淡々と描かれる群像劇、〈あとがきにかえて〉まで読み終えてそういうことだったのか、と心の中で合掌。宇江佐さんらしい地に足のついた、子どもたちへの温かな眼差しが感じられる物語、やはり大好き。2021/07/08