内容説明
戦前から網元を営む杉本家を水俣病が襲う。いじめられ孤立する長い日々。チッソを訴える裁判を決意するも、糧を奪われた漁師の一家は困窮。どん底でつかんだのが「のさり」という境地だった―。水俣病事件を問い直す迫真のノンフィクション作品!
目次
二〇一一年、夏
戦後
茂道の海
異変
杉本組
友人の死
工場の影響
混乱
有機水銀
トシの発病〔ほか〕
著者等紹介
藤崎童士[フジサキドウシ]
1968年生まれ。ノンフィクション作家。劇作活動として、2004年度、06年度に文化庁舞台芸術創作奨励賞(現代演劇部門)を受賞する(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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壱萬弐仟縁
26
水俣にとっての窒素。 福島にとっての東電。 地方が犠牲になる構造。 改める気はないのか。 生存権と、人間の安全保障を破壊する 行為は断じて許せぬ。 水俣といえば、内発的発展もだが、 吉本哲郎先生の地元学も忘れてはならない。 漁師である以上、 福島の漁師と同じものはあるだろう。 札束で解決できないことがある。 有機水銀が肝臓や腎臓に沈殿し、 神経がやられてしまう(85頁)。 発作は日常茶飯事。 寒さ、梅雨、雨の降る前は 間違いなく発作(134頁)。 2014/05/09
つかほ
15
大変な家族の歴史。文明以前から営まれてきた魚を獲って食べるという行為が人間によって阻害される。これは大きな転換期だったんだと感じた。しかし人間は怖い。海に毒を流す、病者を差別する、責任はなかなか認めない。全て人間の所業。読みながら、なんとも言えない感情に、拳を強く握ること、複数回有り。こんなことは滅多にない。2019/02/25
勝浩1958
14
今日5月1日、水俣病は公式確認から60年を迎える。1932年に国策企業チッソの水俣工場がメチル水銀を含む排水を流し始める。1968年旧厚生省が公害病と認定。1973年第一次訴訟で患者家族が全面勝訴。しかしながらその間、患者へは地元の人々からの激しい差別やいやがらせ、恫喝が執拗に行われた。それは、水俣市の財政がチッソに負うところが大きく、そのため訴訟を取り下げさせようとしたためである。チッソは、水俣病の原因が工場排水であることを否定し続けたのである。患者は国からも地元からも見捨てられた。そして海は死んだ。2016/05/01
遊
4
一言では言えない。水俣の記録として読み始めたが、これはいつの時代どの地域でも起きる可能性のあることではないかと思った。同じようなことに向き合った時、自分は果たしてどうするだろうかと考えさせられた。2013/11/11
ナツ
3
何とも言えない読後感・・。裁判には勝ってお金は貰えたが、失った時間や健康は二度と帰って来ない。もっと多くの人に読んで欲しいと思った。2014/11/17