内容説明
主婦の上田亜矢子は、疎遠だった弟・和也が消えていたと知り驚愕する。行方不明者捜索協会に依頼して、担当になった西山静香と、和也の行方を追うことに。和也と時間を共にした人たちから聞かされる話は、亜矢子が知っていた弟とは違っていて…(「第一話 弟と詩集」)。行方不明者捜索協会を訪れる依頼人と、そこで働く西山静香。消えた人の人生を「物語」と呼ぶには、ある事情があって―。捜索のはてに、彼らがみつけたものとは。感涙の連作集。
著者等紹介
桂望実[カツラノゾミ]
1965年、東京都生まれ。大妻女子大学卒業。会社員、フリーライターを経て、2003年、『死日記』でエクスナレッジ社「作家への道!」優秀賞を受賞しデビュー(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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いつでも母さん
208
身内の者が行方不明になったらすぐ警察だと思ってた。もちろんそうなんだけれども、事件性が無ければ簡単に探してはくれないよね。確かにそこに居た。生きていたことの証。自分の知らない事情や足跡が、細い糸を手繰るように依頼者の前に明らかになる連作集。それでも人は・・残された者は納得したいのだ。思いたいように受け入れることでしかケジメをつけられない者もいる。想像することは出来ても真実は分からないから苦しい。どの話も苦しい。だからこそ、このタイトルなのだろう。2022/07/06
おしゃべりメガネ
185
過去に何かしら縁や繋がりがあった人としばらく音信不通になっていて、再び会いたかったり、連絡を取りたかったりしたトキにもういなかったら、そんな流れの話でした。『行方不明者捜索協会』の「静香」はあらゆる要望、条件の元に依頼人から捜索をお願いされます。話の展開としては連作集で1話1話、別な依頼人が登場するのでテンポよく、読みやすいです。それぞれが自分の事情により、姿を消さざるを得なかった展開に胸が苦しくなります。生きてるうちはいつ、何時何が起きるかわかりません。決して自分の生き方に後悔はないようにしたいです。2022/08/20
のぶ
161
本のタイトルが内容とぴったりの連作集。各作品に登場するのはそれぞれの主人公が知っている人物、長年疎遠だった弟だったり、失踪した夫だったり、かつて仕事で世話になって、消息の知れない会社の社長だったりする。そこに登場するのが、行方不明者捜索協会という団体の西山静香。行方不明者を探し出し、消えた人の人生の物語を手繰っていくと、そこには思いもよらぬドラマが隠れていた。5つの作品が収められているが、人の人生ってその分あるのにどれもが切なくて、一つ読むごとにしんみりしてしまった。今まで読んだ桂さんの本でベスト。2022/07/08
どぶねずみ
158
どうして「残された」なのか。亡くなった人と関わりがあった人々が作る物語だからだ。号泣ではなく、後からじんわりやってくる悲しみ。生前に付き合いのあった人の話を聞いて蟠りがフワッと消えていく。行方不明者捜索協会という組織、名前こそ違うがNPO法人で実際に存在すると知った。実は30年ほど前に私自身も警察の身元捜索リストを確認しに行ったことは何度かある。当時はそういう組織はなかったのかもしれない気にかけてくれる人は必ずどこかにいて、いつか遺骨と対面できるかもしれない。そんな希望を抱いた作品だった。2022/07/12
ノンケ女医長
156
こんなに満足させてもらえる小説は、なかなか巡り会えない。人は突然亡くなる。遺された人たちには、それがいつだったのか分からない。大事な事実を知り、当惑し、理由を知ろうとする。作品に描かれる、自分で死を選んだ人たち。希望を抱きにくい状況ばかりだったし、きっと家族や親友がいたとしても、結果は変わらなかったと思う。人生は、どう閉じるべきであるのか。遺された人たちは、どう向き合うのが良いのか。忙し過ぎる現代に、この本を読んで、何度も立ち止まって考えたい。私は涼太という男性に、強く感情移入し、昂りを抑えられなかった。2023/09/19