内容説明
手塚漫画の面白さは、時代を経てもけっして色褪せることがありません。あらためて読むと、まず絵の素晴らしさ、ストーリーの絶妙さに驚き、「やはりテヅカって凄い!」と心の底から実感できるはずです。手塚虫治は自らが体験した「戦争」を生涯のテーマとし、繰り返し作品に取り上げてきました。本書では、疲れた中年男が同窓会に出席するため、懐かしの校舎を訪ねるシーンから始まる、短編の白眉『カノン』をはじめ、おなじみの「ブラック・ジャック」からベトナム戦争を題材にした問題作など、計一〇編を収録。息子にも読ませたい、日本の漫画遺産がここに。
著者等紹介
手塚治虫[テズカオサム]
1928年、大阪生まれ。大阪大学医学専門部卒。47年に『新宝島』を発表。映画の手法で雄弁に語られたドラマとして注目される。医専時代、すでに学業の傍ら流行作家となり、やがて児童雑誌に進出してストーリー漫画の世界を開拓した。61年、手塚治虫プロダクション動画部(のち虫プロ)を設立してアニメーションの分野でも活躍。作品は子供漫画だけでなく、大作『火の鳥』では自らの宇宙観、生命観を余すところなく展開し、漫画の読者を大いに広げた。『手塚治虫漫画全集』(講談社)は全四百巻に及び、質、量ともに戦後漫画界を牽引してきた第一人者である。89年に60歳で亡くなる(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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キジネコ
35
戦後、戦いは終わったと安堵した瞬間があった。全てが元に帰らず、失われたものは永遠であり、心に刻まれた傷は癒える時が来るのだろうか、と懐疑し ただ涙し喪失の悲しみが枯れるのを待つしか術のなかった時があった。戦争が常軌を逸する時間だと誰かが云う、そこで行われた惑乱の行為、是非善悪を見失い耗弱した心神の残影が間違った正義を呪い、殺すものと殺されたものの心に亡霊として巣食う。遺された傷の生々しさと消える事のない禍根の永劫。戦後という言葉も既に死語だとする論調が世間にありますが 起きた事が消え去ることは決してない。2016/05/02
アイアイ
28
日本兵だった父を訪ね来日した男を乗せたタクシードライバー「ミッドナイト」 弟に宿る前世の記憶「0次元の丘」米兵の遺体を処理する劇薬を作る研究員「ザ・クレーター」 戦争の殺人鬼ボブ・ヘンリード軍曹「IL」バスジャックで白人の子供たちと教師を襲った日本人「イエローダスト」 戦災孤児が未来の自分に会う「1985への出発」 人間の心が壊され行く短編。▽図書館 2015/12/24
HIRO1970
17
⭐️⭐️⭐️図書館本。2015/03/21
ふろんた
15
容赦ない描写である。戦争の外側に生きる、体験をしていない人間には想像できない、戦争の内側に生きた人間からのメッセージ。2015/08/13
すうさん
4
前巻の戦争漫画傑作選の1に比べて、個人の戦争の思い出を描いているものではなく、彼の傑作のひとつである「ブラックジャック」や、他の物語として戦争のことを描いている。それが個人的な話ではなく、フィクションであるが故に作者の思いがかえって鮮明に出てくる。戦争というものが、いかに人の人生を歪めるか、いかに人の人生を凄惨なものにしていくか。実は手塚治虫は単なるヒューマニズムを明るく描いているように思えるが(この本でもそうだが)夏目漱石のように人間の心の問題、特にネガティブで人間の暗い面を描いているものが多い。2016/02/19