現代教養文庫<br> 日本の権力人脈(パワー・ライン)

現代教養文庫
日本の権力人脈(パワー・ライン)

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  • サイズ 文庫判/ページ数 302p/高さ 15cm
  • 商品コード 9784390116466
  • NDC分類 335.21
  • Cコード C0133

出版社内容情報

 あとがき

 「企業の内部情報を扱う者がこれを利用しておカネもうけをするとか、身内の者を採用して偉くするとか、最近は気の重くなる話が多い」
 “財界の良心”といわれた木川田一隆(元東京電力会長、経済同友会代表幹事)の秘書的存在だった東電常務の依田直(よだすすむ)が、こう言って嘆いている。
 一九八八年九月二十三日付の朝日新聞によれば、東電では木川田社長だった時に、インサイダー取引の禁止は不文律として定着し、部長クラス以上の役職者の子弟は採用しないことになっている。
 「身ぎれいなのを自慢するわけじゃなく、これは健全な企業経営をするうえでは当たり前の倫理」だと依田は前提しながら、さらにこう語っている。
 「法に触れさえしなければいい、という風潮があるから、いざ具合が悪くなると新たな法ができる。でも、株式市場も国際化して二十四時間取引の時代に、法の規制にだって限界があります。要は恥ずかしい人がいたら、企業内でも社会でもきちっと制裁される土壌(どじょう)こそが大切なのに、残念ながら日本の企業社会はまだ“抜け道天国”です。ふつうに働いている人から、仮にも公私混同という批判を受けるようなことがあれば、それだけで経営者失格といわなければなりません」
 これが“厳しい意見”と聞こえるところに現在の財界の堕落が反映されているのだろう。
 八十六歳の会長の安西浩(あんざいひろし)の義弟が社長、そして息子が社長含みの副社長となった東京ガスならぬ「安西ガス」はもちろん、新日鉄の稲山嘉寛から同じ会社の斎藤英四郎へと会長の椅子(いす)がバトンタッチされた経団連も、「気の重くなる」身内人事、“家庭の事情人事”に支配されている。
 今度、池田芳蔵がNHK会長となったが、三井物産が中心となって推進しながら、結局、実を結ぶことにならないまま終わるであろうイラン・ジャパン石油化学プロジェクト、いわゆるIJPCというものがある。
 これを素材に、『バンダルの塔』(講談社文庫)という小説を書いた高杉良は、当時の物産社長、池田芳蔵について、ある中堅社員に次のようを言葉を吐かせている。
 「僕は、長谷川社長(モデルが池田芳蔵)が首を吊(つ)るんじゃないかと心配です。罪の深さを考えたら、夜も眠れないでしょう。たとえ革命であれオイルショックであれ、経営者は結果が問われるわけですから、責任をとるのは当然です。それに、IJPCの歴史をふりかえったら、間違いだらけで、べからず集をまとめたら、優に一冊の本ができるんじゃないですか。徹頭徹尾、失敗の繰り返しです」
 これは、実際に物産の社員が高杉に語った言葉だというが、幾度か、撤退のチャンスがありながら、やみくもにそれを推し進め、物産だけでなく、参加した各社に少なからぬ損害を与えた責任は、やはり池田にあった。
 その、経営者としては失格の池田が、NHK会長になるところにも、現在の財界、もしくは企業社会における「経営責任」の不在が象徴されている。
 この人事をかなり強引に挙行したのは住友銀行会長で、経団連副会長の磯田一郎である。NHKの経営委員長をしている磯田は、神戸二中、三高の同窓生である池田を会長にしようと目論(もくろ)んで、各方面に根まわしを始めた。池田によって物産の社長に引き上げられた現会長の八尋俊邦(やひろとしくに)(経団連副会長)も大賛成で、八尋、磯田、そして、経団連会長の斎藤英四郎というゴルフ、マージャン仲間で、この人事は進められた。
 八尋は、先ごろ、NHKのキャスター、宮崎緑の結婚の仲人(なこうど)をやってハシャいだが、まったく哲学のない斎藤といい、八尋といい、財界人は芸能人になってしまったのかと言いたいくらいのミーハーぶりである。
 こうした能天気な人間たちに「経営責任」などというものが自覚できるはずがない。
 だから、磯田はハレンチにも池田芳蔵をNHK会長に推薦できるし、自分自身を「僕は人事の名人ですよ」などと言えるのである。
 八七年に突然、任期途中で頭取の小松康の首を切って問題になった磯田が、ある雑誌で、こう発言しているのを読んで、私は開いた口がふさがらなかった。
 “権力の毒”のまわったこれら財界人たちにつけるクスリはないが、こうした濁流の中にわずかに清流を求めて人脈の系譜を追ったのが「日本財界白書」ともいうべきこの本である。もとの原稿の掲載誌は『潮』をはじめ、『新潮45』、『現代の理論』など多岐にわたる。……

  一九八八年十月二十七日  佐高信
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著者略歴
佐高 信[サタカ マコト]
1945年 山形県に生まれる。
1967年 慶応義塾大学法学部卒業。
郷里の高校教師、経済誌の編集長を経て、評論家として独立
《著書》『逆命利君』『KKニッポン就職事情』『現代を読む』『正言は反のごとし』『日本官僚白書』『日本に異議あり』『日本は誰のものか』『大蔵省分割論』ほか多数。

内容説明

伊庭貞剛、鈴木馬左也、小倉正恒、川田順、小畑忠良といった個性的で魅力的な人物を輩出した住友をはじめ、三井・三菱の企業集団、および経団連のなかに清流を求めて人脈の系譜を追った評論集。

目次

第1部 財界はどこへ行くか(失われた財界人の哲学;リクルート疑惑と財界の体質;新日鉄人事と経団連;修養団を支持する財界;精神的お守り札としての安岡正篤;経団連は生き返るか;木川田一隆が泣いている)
第2部 三井と三菱の人脈の系譜(三菱グループのリーダー群像;三菱グループの求心力と遠心力;「人の三井」のドンたち)
第3部 住友の濁流と清流(伊庭貞剛から小畑忠良まで;小倉正恒と近衛文麿;住友グループの老害トリオ;住銀、小松解任事件;平和相互からイトマンへ)

著者等紹介

佐高信[サタカマコト]
1945年山形県に生まれる。1967年慶応義塾大学法学部卒業。郷里の高校教師、経済誌の編集長を経て、評論家として独立
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。

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