内容説明
あらゆる小説は多かれ少なかれ、他の小説を手本にし、影響を受け、技を盗み、足跡を追いかけることによって書かれている。夏目漱石も谷崎潤一郎も村上春樹も例外ではない。オリジナリティと模倣についてどう考えればいいのか。硬軟かかわらず膨大な現代小説を精緻に読みこなすことで圧倒的に支持される文芸評論家が、まるでDJがさまざまな音楽をリミックスするように、自由自在に過去の名著を模倣し、盗むことによって小説を完成させる技法をはじめて明らかにした。
目次
第1章 模倣と「パクリ」のあいだ(小説のそら似;「盗作」の境界線;堂々と盗む)
第2章 オリジナリティの呪縛を解く(インスピレーションの神話;近代のたそがれ;コピペ時代のオリジナリティ)
第3章 模倣実践創作講座(刺激を受けて小説を書く;断片をふくらませる;引用する;「方法」を借りる)
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
harass
65
文芸作品のオリジナリティ信仰を相対化する評論。寺山や澁澤などの例をあげて悪くいうならパクリや影響を受けた例をあげていく。構造主義などの考えやオタク文化の二次創作ややおいなども考察していく。第三章の創作講座は蛇足。三島が絶賛した谷崎『金色の死』→乱歩『パノラマ島綺譚』など。読んで損は無かったと思える本。「すなわちあらゆる小説は、部分や無自覚も含めて、多かれ少なかれ何ものかからの模倣あるいはパクリなのである。だとすれば、パクリを忌避するよりも、むしろ密猟者の自覚と技術の練磨をこそ、書き手は目指すべきだろう。」2016/07/14
ばりぼー
48
小説に限らず、あらゆる芸術・科学・スポーツなど、人間の文化的創造は先人の模倣から始まることは常識。ピカソもエジソンもリッチー・ブラックモアも同じことを言っています。著者は小説における模倣を、①自分の独創と思い込んで、二番煎じや紋切り型に陥ってしまう無知な模倣②他の作品をなぞって取り込み、その形跡を容易く見破られてしまう下手な模倣③もとの作品を土台にして別個の作品に仕上げてしまう巧みな模倣、の3つに分類。乱歩が谷崎の「金色の死」を換骨奪胎して「パノラマ島綺譚」を書いたという実例などを紹介してます。2016/01/28
けやき
35
小説に限らず人間の社会や文化も先人からの積み重ねによるという話かな。2016/08/27
アキ
31
現代ほど模倣を敵とする時代はない。ネットでコピペするのが簡単にできる時代。すぐに盗作や盗用と訴えられる。しかし愛知淑徳大学で教鞭をとる著者は、むしろ模倣を肯定し、文学を形作ってきたものと推奨する。多くの翻訳本がある村上春樹がデビュー作「風の歌を聴け」だけは翻訳を許可してない。米国で模倣とされる可能性が高い。神宮球場で作家になろうと思ったという有名な独白は、自分の好きな海外作家のように英文で書きその翻訳をする小説でと思ったのがその時だったと分析する。模倣から小説は生まれた。それは、あらゆる芸術に言えること。2018/10/25
sibasiba
20
安易にパクリ言うな、オリジナリティなんて幻想だって話なんだけど、二次創作についてが面白かった。少年漫画で少年たちの友情を「意図的に誤読」して楽しむ腐女子達云々はなるほどとは思った。しかし後半の実践編は普通。あと、篠原一は自分も好きでした。復活しないかな。2015/01/20