内容説明
「ハードボイルドに生きてね。どんなことがあろうと、いばっていて。」最後になった電話でそう言っていた千鶴。彼女のことを繰り返し思い起こす奇妙な夜を描く「ハードボイルド」。死を待つ姉の存在が、ひとりひとりの心情を色鮮やかに変えていく季節を行く「ハードラック」。闇の中を過す人々の心が光り輝き始める時を描く、二つの癒しの物語。
著者等紹介
吉本ばなな[ヨシモトバナナ]
1964年東京都生まれ。「キッチン」で海燕新人賞を受賞し、デビュー。「TUGUMI‐つぐみ」で山本周五郎賞を受賞
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ヴェネツィア
94
どちらもタイトルに「ハード」とつくのが不思議なくらいに、むしろソフトで空気に透明感のある物語。また、ともに「死」を仲立ちとしつつ、逆説的だが「生」の喜びや悲しみが静かに静かに語られてゆく。「ハードボイルド」では、「真っ黒い石が十個くらい輪になって置いて」ある結界を越えて、いわば夜の異世界(夢の世界)に入っていくのだが、翌朝の光の情景がそれを洗い流す。こちらは依然として孤独だが、それでも「ハードラック」とともに、読後には不思議なカタルシスが残される。まことに、よしもとばなな(当時はまだ吉本だが)らしい小説。2012/12/09
びす男
77
「人は、自分が飽きたから、もしくは自分の意志で、あるいは相手の意志で別れたのだと思いこむものだ。でも、それは違う。季節が変わるように時期が終わるのだ」。二つの小説は、季節のように人との別れを描いている。誰かの意志が劇的に描かれているわけでも、目を見張るような展開があるわけでもない。ただ、人が心にさざなみひとつたてずに季節を慈しむように、この本は人と人との出会いと別れを穏やかに描いている。2017/07/02
masa
58
主人公の女性が、少し奇妙な体験を通して喪失を受け入れていく物語。仄かな力強さを湛えた瑞々しい言葉が刺さる。エモい。“幽霊ではなく、生きた人間がいちばんこわい”別れた同性の恋人を思い出しながらの、不思議なひとり旅『ハードボイルド』は夜から朝へ。“悲しいのは死ではない、この雰囲気だ”重病な姉の死を待つような日々に、その恋人の兄との淡い交流『ハードラック』は秋から冬へ。描かれる「時間」という絶対軸の強さ。やがて必ずときは巡る。想いとは無関係に今は常に過ぎる。だから、僕らはそこに希望と絶望、どちらの貌も知るのだ。2018/01/13
眠る山猫屋
49
『ハードボイルド』の千鶴さん・・・その名前はぼくの大切な人の亡くなった姉の名前であり、『ハードラック』では大切な姉の脳死から逝去までが描かれていく。あの人に出会ったのは、まさにお姉さんがいなくなる、そんな時だった・・・。不思議な符合に導かれたような、そんな一冊。忘れられるわけなんて無い。2024/03/04
さとか
44
もう何度目かの再読📕疲れた時にはこれ。人の生死に纏わる、闇の中を垣間見た主人公の心が再生される2つの物語。前編が特に好き。ふとしたきっかけで、過去の罪悪感が蘇り目の前の全てのことがチグハグになってゆく感覚は、誰しも経験があること。そんな長い夜をやり過ごして、普通のベースに戻すのは、ちゃんと地に足をつけた生活を送る人が身近にいるから。読み終わる頃には、ホッと一息つけます。文字数も少ないので、あっという間に読み終わります。2021/02/27