内容説明
北町奉行所の同心、為後勘八郎は見廻りの道すがら、見なれぬ路地に通う近くの少女、おみちを目にする。おみちは客引きの中年男、富蔵のもとを訪ねているらしい。おみちを案じた勘八郎が探索すると、二人には意外な真相があって…。男と女、家族の情を描いた「その角を曲がって」ほか、市井の人々を温かくみつめた超一級の味、人情捕物帳。
著者等紹介
宇江佐真理[ウエザマリ]
1949年北海道函館市生まれ。函館大谷女子短大卒業。95年「幻の声髪結い伊三次捕物余話」でオール読物新人賞受賞。2000年「深川恋物語」で吉川英治文学新人賞を受賞。もっとも有望な女流時代小説作家として注目されている
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
じいじ
94
いいですねぇ。いまの季節にピッタリの作品です。〈情け同心〉と仇名される勘八郎夫婦と年頃の娘一家を中心に描いた物語。武家と町人の暮らしが五篇の連作で一度に楽しめます。江戸下町の風情、暖かい登場人物で、快い読み心地はいつも通りです。表題作【銀の雨】が秀逸の出来栄えです。娘小夜の複雑に揺れる心の裡が見事に描かれています。「主馬を慕えば慕うほど、言葉はそれとは逆になって口をついてしまう…」小夜の述懐は、せつなく感動で胸がつまります。いつか再読したい宇江佐小説の傑作の一冊です。2019/06/08
ふじさん
84
宇江佐真理の初期の傑作。同心の為後勘八郎と岡部主馬が軸となって展開する人情話の連作集。考え方の違う二人の同心が、家族や仲間に起こる幾多の困難を乗り越え、一つの家族として生きて行く姿を描いた人情捕物帳。堪忍旦那と呼ばれる勘八郎や主馬が関わる市井の人々の日常を巧みに描き、捕物の面白みも加えながら読ませる作品。勘八郎の娘の小夜と主馬との結婚は、最後までどうなることか心配したが丸く収まり一安心。この辺の描き方は、さすが宇江佐真理。 2021/04/10
ぶんこ
55
堪忍旦那とも呼ばれる人情味溢れる同心、勘八郎さんの懐の深さに感じ入りました。 主馬の窮地を救う手腕はさすがでした。 子を思う気持ちにも溢れ、ちゃんと奉行にも話を通し、惚れ惚れしました。 主馬さんに対しては「醜女の深情け」の一言でガックリきました。 小夜さんは幸せになれるのかと心配でしたが、ハッピーエンドでしたね。 堪忍旦那の周りには健気な少年少女がいて、おみちも梅助も幸せになってもらいたい。 何より嬉しいのが、主馬さんが第二の堪忍旦那と言われるようになっている事。 本当によかったです。2015/12/22
shizuka
48
堪忍旦那がメインではあるけれど、どちらかというと軸は娘たちにあるのかなと思った。堪忍旦那は〆るところを〆る重要人物的な。なんといっても小夜のきっぱりとした態度が気持ちよかった。好いた男に「醜女の深情けか、、」なんて言われたら、そりゃあへこむし諦めもつくわ。なんて男だ。でもって当の本人は言ったことすら忘れているんだからたちが悪い。にもかかわらず小夜が他の男と仲良くなり始めると焦るって何。これがオトコゴコロなの??結局は円満解決だからいいけどさー。最近女性より男性のほうが我儘ではないかとつくづく思うのです。2017/05/01
keiトモニ
46
切腹を止められ短刀を離した主馬が小夜に掛けた一言「醜女の深情か…」には参ったな。そりゃそんな自棄糞時だけどそう言っちゃねえ。その後の小夜の胸を度々突き刺したってのも納得。“儂はお前に命を助けられた、親父殿には生きる道を与えられた…感謝しておる”から嫁にするじゃ女心はそっぽを向くわ。岡部主馬を為後勘八郎の養子にすることで一件落着かと、そうは行かんワな。“私は心から妻になってほしいと言う人に嫁ぎたいの”と宣う小夜。まず名前が不吉。まっ女性ってのはつまらんことでこうも臍を曲げるかね。男性ならどなたも経験ある筈。2021/02/04