内容説明
憲太郎が恋心を寄せる篠原貴志子。両親に捨てられた五歳の圭輔。行き場のない思いを抱えた人間たちが、不思議な縁で憲太郎と結ばれてゆく。しだいにこの国への怒りと絶望を深める憲太郎は、富樫と壮大な人生再生への旅を企てる。すべてを捨て、やり直すに価する新たな人生はみつかるのか?ひとりひとりの人生に熱く応える感動の大長篇。
著者等紹介
宮本輝[ミヤモトテル]
1947年兵庫県生まれ。「泥の河」で太宰治賞、「蛍川」で第78回芥川賞を受賞。また「優駿」で吉川英治文学賞受賞。著書に『春の夢』『流転の海』『錦繍』など多数。近作に『睡蓮の長いまどろみ』がある
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感想・レビュー
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mura_海竜
110
タイトルの『草原の椅子』は何を表しているのだろう。不変なものなのか。自然と造作物の対比か。主人公が50歳ということも相まって、感情移入した。著者は阪神淡路大震災被災後にシルクロードに行き、本小説を編み出したと。舞台は関西から終盤はウイグルーフンザに。圭輔が先行きが滅入る物語にアクセントになって、彼の発達を主人公と共に応援したくなる。日本には『おとな』がいなくなった、と。日本人がかつて持っていたであろう矜持と慈愛。深くいろいろと考えさせられる点で良かった。生命の存在意義みたいなところも感じました。2022/01/24
流竜会
41
再読の続き。結局のところ、50歳という年齢は、なってみると実感として「自己を省みる」歳なんだと思います。「まだ50歳なのか」「もう50歳なのか」。このたった2文字の違いを、自然と噛み締めるようになれたら良いなと思います。この作品の台詞のひとつひとつが、そう感じさせる魅力を持っているように感じます。人生いろいろ♪毎日を生きていくうえで、何かしらヒントめいたものをいただけた作品でした。広大な風景と、大人の恋と友情と。こういう歳の取り方をしたいなあ、と思います。k2015/09/10
鈴
36
上巻のときから、著者は世の中に不満を持っているのかな?と思っていたが、あとがきを読んで、やはりそうかと納得。作中でのいろんな文章に、共感した。「解決できない問題なんて、この世にない。強気で行こうぜ。」「笑えよ。お日さんの当たってないところに花は咲かないぜ。暗くて、じめじめしてるところには、げじげじなんかが生まれるし、黴もはびこる。人生もおんなじだよ。」「ゴムホースの原理」2016/11/24
エドワード
30
タクラマカン砂漠。空に飛ぶ鳥なく、地に走る獣なし。この日本列島より大きい砂漠を越えて、紀元前から文明は東西を行き来していた。人間は偉大だ。だが今は平成の日本人の話に戻ろう。遠間と富樫はタクラマカン砂漠と最後の桃源郷フンザへ行く決意をする。作者は二人を通して、現在の日本の閉塞感、倫理や道徳の荒廃への無常感を語る。旅に同行する貴志子と圭輔。四人の新たな旅立ち。水も空気も危険な旅。その先の圧倒的な光景。生きる力が蘇る。遠間と貴志子のプラトニックな愛に憧れる。今日は生きるのにもってこいの日。ああ、シルクロード。2013/01/06
ぺんぎん
28
こういう考え方が出来たら楽なのかな。自分では思ったことないけど周りの人には随分難しい考え方するんだねって時々言われるから。共感する言葉が散りばめられて読んでみて良かった。2017/10/30