内容説明
男が長いことつかっていたバスタブの湯は、はたして、スープか?毒きのこを食べに長野に出かけたマル、彼への桐子の暖かな想いを綴る「4U」。死んだ風変わりな少女の記憶を辿り、デビュー前の自らを思い起こす「眠りの材料」。右手のない渚子、彼女の義兄への激しい想いと、熾烈な自己愛を描く傑作「天国の右の手」他。9つの恋の化学反応(ケミストリー)。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ヴェネツィア
167
9つの短篇からなるラヴ・ストーリーズ。もっとも、最後の「メサイアのレシピ」だけはちょっと例外。いずれも大人の恋を描いたクールな物語。全編に山田詠美らしさが横溢する。お手軽な恋に見える。でも、恋の本質って、案外そういうものであるのかも知れない。篇中の「血止め草式」に「恋愛映画も、恋愛小説も、みいんな嘘ばっかり」というセリフがあるが、ここにあるのは恋のリアルだ。「悲惨なのは、死体に慣れることよりも、生きているのに慣れることではないのか」(「紅差し指」)ーそう、ここにあるのはリアルで確かに生きている生の様々だ。2014/10/27
真香@ゆるゆるペース
137
様々な人間関係の中で起こる化学反応(ケミストリー)を題材とした 「4U」「眠りの材料」「ファミリー・アフェア」「血止め草式」「男に向かない職業」「天国の右の手」「高貴な腐蝕」「紅差し指」「メサイアのレシピ」の9つの恋愛短編集。どの話もシュールでアングラ感溢れる感じで、普段の私とはシンクロしない世界観なのに所々で共感してしまったのは、やはり自分が年齢を重ねたせいだろうか?独特な感性や言い回しのエイミーワールドに、煩悩を刺激された。何度も読み返したくなる本ではないけど、たまに気分転換として読むのにいいかな。2021/07/17
優希
48
クールな大人の関係がクールに描かれた短編集だと思います。化学反応を示すように語られる恋愛の数々がとびきりかっこよくうつりました。自分を認めながらあっけらかんと自分をさらけ出すからこそ輝きを放つのかもしません。男や世界はこう見えているというのが情景的に描かれているからこそ爽快に物語が描かれていると言えるでしょう。遊ばれているように手の内で転がされながら読んでいる瞬間に酔わされてしまいます。どうしようもなく胸が騒ぐ感じが好きです。2014/09/07
絹恵
37
理解と侮蔑を抱えて行われるそれは、微熱を残していくけれどいつだって潔さを忘れてはいないものでした。かたちの定まらないものならいっそのこと融けてしまえばいいのにという願いを裏切りながら。でもそれはどこでだって堕ちるものであって、例えばあなたがいなかったとしても生き続けるものだから、あなたの知らないところで捧げてもいいだろうか。2014/10/13
佐島楓
35
「死を思うことは、生を思うこと」このせりふが光る、9編の短編集。「眠りの材料」がよかった。まっとうにイカれている人を描写するのが詠美さんは巧い。心の中の空洞を描くのも。2014/07/20